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8割のマンションが違反している消防法で定められた管理組合の義務とは

2019.05.24


2017年にロンドンで多数の被害者を生んだ、高層マンションでの大規模火災を覚えているでしょうか。グレンフェル・タワーという24階建ての高層マンションで真夜中に発生したこの火災は、わずか15分ほどで火が建物全体に広がったといわれており、最終的に79人(推定)の死亡者が出る大きな被害が発生したことで世界の注目を集めました。

大規模火災となった原因として大規模修繕工事時に可燃性の材料が使用されていたことも注目を集めましたが、それとは別に火災警報器が機能しなかったりスプリンクラーの設置がなかったなど、防火対策も原因の一つとなったといわれています。

もちろんロンドンと日本では気象条件や防火基準は異なりますが、そもそもマンションに関係している消防法やその他防火・防災に関わる義務についてあなたはどの程度知っているでしょうか。東京消防庁によると消防法で「高層」に分類されるマンション(10階建て程度)9,288棟のうち576棟への立ち入り調査を行った結果、約8割(463棟)のマンションで消防法違反が指摘されたのだそう(2016年調査結果より)。

分かっていて守っていなかった管理組合もあった可能性はありますが、8割が違反していたという点を鑑みると、知らないうちに消防法に違反していた管理組合が多かったと考えられます。マンション管理組合に義務付けられている防火関連の法律、あなたのマンションでは守られていますか?

消防法で定められている管理組合の義務


マンション管理組合で把握しておきたい防火に関する法令として、消防法があります。消防法では第6条で防火対象物の一つとして「寄宿舎、下宿または共同住宅」をあげており、マンションはこの共同住宅にあたります。映画館などの不特定多数が出入りする場所ではないため特定防火対象物ではありませんが、非特定防火対象物に該当しますので規模や条例によって点検や設置が義務付けられているものも。大きく分けて下記の2点に注意しましょう。

消防設備の設置・点検
非特定防火対象物となるマンションでは平米数によって消防設備の設置義務があります。必要な設備としては

・消火器
・屋内消火栓設備
・自動火災報知設備
・避難器具

といったものがありますが、それぞれ設置義務が発生する面積の基準がありますので、自分のマンションはどれが対象となるか確認しておきましょう。また、設置してある消防設備を年2回点検し、3年に1回消防署長に報告するという義務もあります。点検は対象物によっては個人で点検することもできますが、資格をもった点検員の方に点検してもらうのが安心です。

ロンドンの火災の例でも分かるように、点検を怠ったり点検精度が悪いといざという時に消防設備が機能せず、いざ火災が発生した時に大きな被害を生んでしまうことになりかねません。1年に1回必要な全体点検では、専門の点検会社に依頼した方が安心です。

防火管理者
消防法では収容人員数が50人以上(店舗が入っている場合には30人以上)のマンションでは、防火管理者の選任が必要となります。収容人員数は世帯数ではなく、人数によって算定を行うため注意しましょう。人が入居していない部屋があった場合でも、部屋の間取りによって下記のような1戸あたりの収容人員算定を行う必要があります。

・3K(DK/LDK含む)以上の1住戸…4人
・2K(DK/LK/LDKを含む)の1住戸…3人
・1K(DK/LDKを含む)の1住戸…1.5人

つまり、仮に3LDKの間取りのマンションでそのほとんどが空室だったとしても、13戸以上のマンションについては防火管理者の選任が必要となるのです。この基準を基にすると、ファミリー向けマンションではほとんどのマンションで防火管理者が必要となりそうですね。防火管理者はマンションの条件に合わせた資格講習を受ける必要がありますので、管理組合で選任するだけではなれないことも覚えておきましょう。

マンションの防火管理で必要なこと


防火管理者がいるマンションでは、防火管理者が中心となって防火管理を行います。防火管理者は下記のような役割があります。

1.消防計画の作成
消防庁が作成している見本を基に、マンションに合わせた消防計画書を作成しなければなりません。これは火災が発生した場合の対処や避難訓練の計画、防火管理者の外部への委託情報、各世帯の防火対策などマンションの防火管理全般についてまとめられています。また、防火管理者が必要なマンションでは、作成した消防計画を消防署長に届け出ることが必要となります。

2.消火、通報及び避難訓練の実施
いざ火災が起きた際、防火管理者だけでは消火や通報といった火災発生時の対応の全てを行うことができません。そのため、マンションの居住者が消火活動や避難誘導ができるよう、定期的に消火器の使い方講習や避難経路の確認といった訓練を行います。

3.消防用設備施設の点検・整備
マンションの規模によって消防用設備の設置・点検の義務があることは前述しましたが、この点検は防火管理者が中心となって行います。点検だけではなく3年に1度の報告も忘れないよう管理しましょう。また、この義務付けられている点検の他に設置箇所や変形などの異常がないかといった日常点検も防火管理者が行います。

4.火気の使用または取り扱いに関する監督
火気を使用するイベントを管理組合で実施する場合や、喫煙所がマンション内にある場合の監督も防火管理者の役割の一つとなります。例えば消火器の訓練でたき火を行う場合には、「火災とまぎらわしい煙または火炎を発するおそれのある行為届」が必要ですので、そういった届け出も防火管理者が行いましょう。

5.避難または防火上必要な構造及び設備の維持管理
先ほどの消防用設備と同じく、防火シャッターや避難通路など避難に必要な構造や設備の維持管理も必要です。防火シャッターの前や非常口の前などは、避難時に障害となるような物を置くことは禁止されていますので、避難経路を定期的に見て回ることも管理の一つとなります。

6.収容人員の管理
主に映画館などの不特定多数の人が出入りするところで、火災時のパニックを防止するために消防用設備の数に合わない人数が施設に入らないよう制限することをいいます。マンションの場合は各世帯の居住者名簿で収容人員を把握しておきましょう。

7.その他の防火管理上必要な業務
上記のほか、必要な書類関係を用意したり点検報告書のまとめといった書類業務が必要となります。防火管理者が一人のマンションでは、防火管理者が突然の引っ越しなどでいなくなってしまう場合にも備え、いつでも引き継げるよう防火管理者の業務を簡単にマニュアル化しておくと安心です。

「マッチ一本火事のもと」とはよくいったものですが、ロンドンの大規模火災は冷蔵庫が火元となったといわれています。この例からも分かる通り、どれだけ気を付けていても思わぬ火元から火災というのは発生する可能性があるのです。建物全体での防火意識を高めると同時に、万が一の時に被害者を出さないようにするための対策と準備は必須と言えるでしょう。防火管理についての正しい知識をつけて、マンション全体の安全を守りましょう。

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