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「建築と不動産の“あいだ”」建物に関わるふたつの異業種経験で見出した“価値の相乗”|創造系不動産 代表 高橋寿太郎氏インタビュー

2019.10.25


建築家と法規専門家、建築家と不動産専門家という相反する分野の“あいだ”に入ることで、成功を収めた佐久間悠氏と高橋寿太郎氏。まもなく開催される「市場価値を創る中古物件の条件とは? これからの建物リニューアルを専門家と考える」に先駆け、建築・不動産業界で成功をおさめた裏話を、お二人の素顔にも触れつつご紹介するシリーズ企画。二回目となる本稿では、創造系不動産の高橋寿太郎氏をご紹介します。

寿太郎という名前に込められた想いや決意とは――?


――まず初めに建築業界を目指したきっかけを教えてください。

私の祖父が大工で、曾祖父が宮大工だったんです。戦後は農業一本になっていたと聞いていますが、曽祖父は大正時代に、祖父は昭和初期に実務を行っていました。私自身は大阪出身ですが、祖父や曾祖父は兵庫県・丹波篠山生まれで、出稼ぎで京都にも行ってたんだろうと思います。その当時は大工だろうと宮大工だろうと職人がひとりひとりのレベルが高い時代だったと聞いています。

――おじいさんとの想い出などはありますか?

私が子どもの頃に祖父は亡くなったので、あまり祖父の記憶というのはないのですが、家に曾祖父が墨で書いていた図面がたくさん残っていたんですよ。和紙に書かれていて、100年以上経つのに保存状態もよいものでした。そういう曾祖父の図面を普段から見ているうちに、なんとなく建築士かなと思うようになりました。

32歳の時に祖父の名前である「寿太郎」を襲名する


実は私の「寿太郎」という名前は祖父の本名なんです。ちょうど32歳の時ですね。祖父の名前を気に入っているから襲名したいと、父を含めた5人兄弟の叔父と叔母に相談しました。親族の中でモノづくりの世界に行ったのは私だけでしたから、思いを継ぎたいという気持ちもありました。でも彼らからすれば自分の父親の名前を甥が名乗るわけですから、反対されるかなと思ったんです。しかし5人の兄弟が口をそろえてOKと言ってくれたんですよね。みんな関西人でノリが良くてよかったです。本当に感謝しています。

――32歳の時に何か転機が訪れたのですか?

それまでは、建築士として住宅・美術館などの設計がメインだったのですが、転職してあえて不動産業界に飛び込みました。20~30人ぐらいの小さい不動産会社で、40代の営業上がりの社長でした。800~1000戸ぐらいのアパートやマンション、オフィスを管理していて、その他に売買・賃貸仲介、マンションや戸建ての分譲開発などをする会社でした。

――周りは相当、驚いたのではないですか。

建築から不動産屋に転職するの人は、当時は皆無ですからね(笑)。でも、設計事務所で自分なりにがんばっているつもりだったのですが、デベロッパーや地主さんの本当の価値を作れている気がしなかったんです。彼らが何かを建てたいと思って提案をしても、それがお客様のニーズなのか、社会的なニーズなのか、はたまた自分の作りたいモノを建てているのかでいうと、自分が作りたいモノを建てている状況だった。顧客が抱えている課題を直接知りたくて、そのフロントに立っている不動産営業という立場を経験してみたかったんです。

異業種の不動産で奮闘する日々。そこから転機が生まれる

――建築業界といえど、異業種に飛び込んで相当、苦労されたのでは?

すごく大変でしたね。「いらっしゃいませ」がうまく言えませんでしたから(笑)。転職して1年ぐらいでリーマンショックが発生し、街頭でチラシ配りまでやりました。当時は、転職したことに悩んだり、うまくいかなくて悔しい思いをしたり。それをバネにして前に進んだりと、悩みまくってましたね。そんなときに優秀な方が転職されてうちの会社に入社したんです。某ファンド出身の方でした。考え方もロジカルで不動産のことだけでなく、お客様の心に触れる方法やコミュニケーションの醍醐味を教えてくれて。今までと違う世界が広がったなって思って、急に仕事が楽しくなりました。

――そこから創造系不動産を立ち上げたいきさつを教えてください。

もともとそこまで長く働くつもりでもなく、いずれ建築業界に戻って設計事務所を作ろうという思惑があったのですが、気づいたら不動産会社にも4年半在席していました。そこから一念発起して立ち上げた会社は、不動産会社になっちゃいました(笑)。

――なぜ、不動産にとどまったのですか?

建築と不動産の技術を持っている人材って非常に少ないんです。理由は簡単で、全く違う2つの価値観を持っているからです。モノづくりはハイクオリティを求めますが、一方でお客様への取引・適切な維持・管理を行う不動産という世界がある。不動産に必要なスピリットは建築家とは異なります。誤解を恐れずに言うと、建築と不動産を比較して、どちらがお客様のことを考えていることができるかというと、圧倒的に不動産だという答えでした。それが創造系不動産を立ち上げた背景です。

――創造系不動産ではどんな業務を行っているのですか?

我々は不動産のコンサルティングを主軸にしており、建築業務を一切行っておりません。現在創業9年目なのですが、特徴的なのはアルバイトを含めて16名が全員が建築の世界でモノづくりを行ってきた人材です。建築の道に進んでいる人が不動産のスキルを学ぶためにやってきます。創造系不動産では、建築と不動産の“あいだ”に入って、優秀な建築家をバックアップするというビジネスモデルを持っています。だから、建築家からの相談がほぼ100%です。世代的には若手建築家が多いです。

――建築を知っている人が不動産業を行うメリットは?

建築と不動産には壁があり、お互い相いれないこともあります。お客様はデザイン性・耐震性に優れ、無駄な所が無く、安くて施工しやすい建物を求めます。さらに長期に渡り、空室率が少なく収益率が高い不動産であること、これが令和のニーズです。ただ、そこを理解していないオーナーも多いので、まずは価値観を伝える必要がある。その点で、不動産と建築の両方が分かる人材がいると有効です。

良いビルを見分けるためには、オーナー自身が勉強しなければならない

――今回のセミナーテーマである“良い中古ビル”の見分け方はありますか?

ハード面でいうと、いかに長持ちさせるかが大事です。適切にメンテナンスされた建物はキャッシュフローを生みやすいです。まず、それをオーナー自身が胸張って言えないといけない。古い建物を今風に古民家カフェにしたいという人は、実は一番レベルが高かかったりします。そのようなレベルの高さをオーナー自身が身に着ける必要があると考えます。

――今回のセミナーでどんなことを伝えたいですか?

長く持たせることや家賃をいかに上げるかではなく、空室率をいかに下げるかが重要だと思います。都市部ではレベルの高い建物がひしめき合っていますが、近郊や郊外では不動産の管理レベルが高い建物がほとんどありません。ちゃんとやっていれば、その地域で1番手になれるはずです。そこに必要なのが差別化と競合調査です。例えば新築ビルの設計をするときに、その周りの空室をレインズで探すオーナーは皆無です。もちろん私達はやりますし、オーナーだけでなく設計者も行います。そういうオーナーにとっての心構えや実際やるべきことなどを詳しくお伝えできればと思います。

――とても勉強になりました。当日も楽しみにしています。

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高橋 寿太郎(たかはし じゅたろう)/創造系不動産 代表取締役 経営学修士・宅地建物取引士・一級建築士
1975年大阪市生まれ。
「建築と不動産のあいだを追究する」が経営理念の、不動産コンサルティング会社。建築系の専門家とのコラボレーションに特化し、建築と不動産のあいだに隠れた、顧客の価値を創造する。集合住宅、オフィス、商業ビル、工場と、様々な用途の建物企画や不動産コンサルティングを手掛けている。また創造系不動産スクール、いすみラーニングセンター、建築学科のための不動産学基礎、(公財)不動産流通推進センターなどで、多くの教育プログラムを開発する。
≪受賞≫
「第2回これからの建築士賞」(2016年)
「グッドデザイン賞」(2016年、2017年、2019年)
≪著書≫
『建築と不動産のあいだ』(学芸出版社、2015年)
『建築と経営のあいだ』(学芸出版社、2020年1月発売予定)
≪企業HP≫
http://www.souzou-kei.com/

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