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インテリアデザイナーとしての失敗で掴んだ転機 “建物の法律家”への道|建築再構企画 代表 佐久間悠氏インタビュー

2019.10.25


建築家と法規専門家、建築家と不動産専門家という相反する分野の“あいだ”に入ることで、成功を収めた佐久間悠氏と高橋寿太郎氏。まもなく開催される「市場価値を創る中古物件の条件とは? これからの建物リニューアルを専門家と考える」に先駆け、建築・不動産業界で成功をおさめた裏話を、お二人の素顔にも触れつつご紹介するシリーズ企画。初回となる本稿は、建築再構企画の佐久間悠氏をご紹介します。

育った街に感じた“暮らしやすさ”への疑問が原体験に

――佐久間さんのご出身はどちらでしょうか?


私は神戸市灘区で生まれました。神戸って港町で大阪という大都市に近くて、割と外国人も多いので横浜と似ていると言われますが、川崎のような工場地帯もある。私が育ったのはオシャレな神戸ではなく、その工場地帯の方です(笑)。ずっとマンション住まいで、半分弱ぐらいは神戸製鋼か小泉製麻という繊維業の関連会社の社員ばかりでした。工場からモクモクあがる煙を見ながら過ごした幼少期でしたね。その後、六甲アイランドに引っ越したんですよ。

――六甲アイランドはどんな街だったのですか?


六甲アイランドはいわゆるニュータウンです。もともと埋立地で新築マンションが大量に分譲され急激に人が増えました。その購買意欲を駆り立てるために商業施設もたくさん作られて、セガの大きなゲームセンターや当時西日本で一番大きなウォータースライダーを備えたプールなど。とにかく子どももいっぱいいて賑やかな街でした。ちょうど高校生の時に、そこで阪神淡路大震災を経験します。

――神戸はかなり震災の影響を受けたと聞きますが。


元が埋立地なので、液状化はひどかったですね。プールも震災でやられて復興もできず、撤退しちゃいました。社会人になって久しぶりに帰省すると、商業施設もシネコンも全部撤退していて、残っているのはダイエー系のスーパー程度。買物をするなら、わざわざモノレールに乗らなきゃいけない状態まで衰退していました。あれだけ昔は子どもがたくさんいたのに、子どももほどんどいなくなってました。ニュータウンってすごく暮らしやすい街である反面、それって人間にとって暮らしやすい空間なのかはずっと疑問には思っていました。

――昔から開発に囲まれてきた環境が、今の佐久間さんの源泉になっているのでしょうね。


たしかに神戸エリアは、開発にすごくお金をかけていて、六甲アイランドは六甲山を削って埋め立てて開発した経緯があるのですが、できあがったものが魅力的かというと、正直そうでもない気がしました。子育てっていう視点で子どもが遊ぶならばニュータウンは安全だけれど、大人が過ごすには物足りないところもある。震災以降は有名なスーパーのチェーン店が増えた一方で、神戸にしかないような店が衰退してしまった。そういうのを見てきたので、都市計画自体に違和感を持ちつつ、どこかで興味があったのかもしれません。

――そこから建築の道に進もうと思ったきっかけは?


最初はグラフィックデザイナーになろうと思ったんです。プロダクトデザインもよかったのですが、そこまで手先が器用じゃなかったのと、中島英樹というグラフィックデザイナーへの憧れがあって、京都工芸繊維大学に入学しました。2年生になると、工業デザインか建築コースが選択できるのですが、ちょうど建築コースの先輩がイサム・ノグチの美術館の設計をしていたんです。石を削って模型を作っていた先輩の姿を見て、すごくカッコイイなと思って。それに建築学科に行けば、建築もデザインも両方できるのも魅力でした。

インテリアデザイナーの道に進むも、さまざまな障壁に直面する

――大学卒業後はどういう仕事をしたのですか?


最初に入ったのは建築系のアトリエ事務所です。公共施設の建築に強い先生で、美術館や体育館から個人の戸建て、オフィスまで作っていらっしゃいました。3年間ほど働きましたが、ほとんどお手伝いみたいな形でしたね。その後、別の事務所に移りインテリアデザイナーとしてファッションブランドの店舗インテリア設計を手掛け、1年後に独立しました。

――最初はインテリアデザイナーとして独立されたということですか?


そうです。そちらのほうが人の肌感覚に近いというのもあり、面白かったんです。それから建築が分かるインテリアデザイナーとしてニッチなところを狙ったほうが小さい会社では正しい戦略かと思いました。ですが、一般的に別々でやるものなので、あまり需要がありませんでした(笑)。加えてサブプライム問題やリーマンショックなどが重なり、うまくいきませんでした。

――いきなり出鼻をくじかれた感じですね。


正直、大変でしたね。あと法規制も大きな足かせになりました。ある時、代官山の某高額マンションの地下一階に保育園を作りたいという依頼がありました。当時100㎡超の用途を保育園に変えると、確認申請が必要だったんです。それから保育園にはバリアフリー法が適用されます。車いす対応のエレベーターや誘導ブロック、視覚障害者用音声案内を入れないといけないんです。法律では2,000㎡を超える建物が該当しますが、東京都の条例では0㎡から適用されてしまうんです。結局、この案件は理事会にかけられて、地権者からのNGによって、計画は中止されました。

法規問題によって仕事を失った経験が、現在のビジネスを着想させた

――その経験が、建築再構企画を生み出した原点ですね。


まさにその通りです。インテリアデザインの仕事がやりたいのに、法規制のせいでできないという問題が続き、このままいくと仕事がなくなってしまうと危機感をいだきました。そして2009年ぐらいにインターネットで建築法規の相談を受ける窓口を開設しました。これが結構、評判になりました。もともとは設計の仕事をとるためのフロントエンドという位置づけだったのですが、今はこちらがメインになっています。

――相談を受けるうちにニーズが増えたか、それとも市場が変化したかでいうとどちらですか?


両方あると思います。もともと各地に何百万戸とある空き家問題も含め、古い建物をどうにかしたいという想いもありました。それから2014年前後に法改正があり、認可の権限委譲が発生したんです。どういうことかというと、保育園や介護施設、学校法人の認可作業を都道府県から市町村単位に権限が渡ったんです。今まで建築に詳しくなかった市町村の公務員が対応に困るわけですよ。その頃から多くの問い合わせがくるようになりました。

――今現在は、法規相談に特化されたんですよね。


数年前までは延長線で設計を取れるようなモデルでしたが、設計を含めてしまうと利益相反になるようなアドバイスをしないといけなくなることもあります。そこは切り離したほうが良いと考えるようになりました。現在は法規のコンサルティングに特化して、難易度の高い案件を主に受けており、新築工事やデザインだけの依頼は一切受けていません。ただ法規面や建築が分からないというデザイナーはたくさんいるので、裏方的に仕事をサポートすることはよくあります。

佐久間さんが考える、中古ビル市場の課題とは

――今回のセミナーテーマである中古ビル市場、課題をどう捉えますか?


現在では新築に強い大手デベロッパーさんが中古ビルを買い取ってリノベーションするケースが増えています。ただデベロッパーさんの工事を請け負う業者さんは割と決まっていて、かつ長年培ってきたノウハウがあるゆえにガチガチに固まっているのが現状です。今後の大規模修繕や大規模建て替え、転用を考えないで新築で建てて、分譲を行っていくことに行き詰まりを感じます。一方で、大規模修繕のノウハウも工事会社同士であまり共有されないし、デベロッパーさんもノウハウがない。こういう状況が大量生産されているので、そこを橋渡しする人材が必要だと強く思います。

――まさに佐久間さんの専門分野ですね。良い中古ビルを見分けるポイントは?


当たり前の話ですが投資家視点で見れば、適法な建物が良いと思います。ちゃんと図面や書類が残っているかも大事です。一見すると簡単なことのように思えますが、転売を重ねると図面や書類が無くなってしまうこともあります。日本の建物は構造がしっかりしていれば、50年~100年は持ちます。時代の変化に臨機応変に対応でき、経年劣化に耐えるには建物というハード面だけでなく、法令遵守や図面がないといけません。その意味で資料が残っていることはポイントが高いです。

――最後に今回のセミナーでどんなことを伝えたいですか。


僕の立場で言うと、図面や資料の大事さや、建築士をどううまく使っていくかはお話しできるかと思います。オーナーさんが建築士に依頼することはハードルが高いと思われていますよね。でも実は、数で言えば建築士事務所は歯医者やコンビニよりも多いんですよ。そんな数があるのに問い合わせしないのはもったいない。今後、中古ビルの改修をするときにどういうところを専門家はチェックしているのかなど、その場でお話できたらいいなと思っています。

――建築と法規の両方を知る、佐久間さんならではお話を楽しみにしています。

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佐久間 悠(さくま ゆう)/株式会社建築再構企画 代表取締役 一級建築士
1977年神戸市生まれ。京都工芸繊維大学大学院修了。
建築設計及び内装デザインの設計・監理の経験を活かし、「建物の法律家」として違法建築、既存不適格の適法改修に高い専門性を有し、耐震改修をはじめ、カーテンウォールの設計や確認申請の提出を要する大規模改修も得意とする。個人住宅から上場企業の保有施設まで、幅広いクライアントに対してサービスを展開している。
≪受賞≫
第2回「これからの建築士賞」(2016年)
≪著書≫
『事例と図でわかる建物改修・活用のための建築法規』(学芸出版社、2018年)
『知っておきたい!最新 図解 建築基準法と消防法のしくみ』(監修、三修社、2016年)
≪企業HP≫
https://kenchiku-saikou-kikaku.com/

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