住まいの今と未来をつたえる

特集

「URであーる」でおなじみ!UR都市機構の“集合住宅歴史館”を見学してきた

2018.07.11


「URであ~る」のCMでおなじみの、UR都市機構ってご存知ですか? 実際にURの住宅に住んでいる方から、名前は知っていても詳細を知らない方までさまざまかと思いますが、UR都市機構はおおざっぱに言ってしまえば日本最大の大家であり、賃貸物件の貸し出しや管理を行っている独立行政法人です。今回はそんなUR都市機構が実施している見学会の様子を紹介します!

UR都市機構の見学会って?

あまり知られていませんが、UR都市機構は八王子市に施設を所有していて、古い集合住宅を当時の状態のままで見ることができたり、建物の機能に関する体験ができる予約制の見学会を実施しているのです。特に古い集合住宅の展示が行われている「集合住宅歴史展示棟」は50~60代の方には懐かしく、20~30代の方には珍しいので人気なんだとか。では実際にどんな見学や体験ができたのか、レポートいたします!

水回りの位置が変更できる『KSI住宅棟』を見学!

最初に案内されたのが『KSI住宅棟』という2階建ての建物。こちらの展示棟のテーマは『KSI住宅』。1階に入ってみると、さまざまなパネルでKSI住宅についての理解が深められるようになっていました。KSIは「機構型スケルトン・インフィル」の略で、通常建築時に固定されている水周りの場所や電気設備を、更新可能な設備(インフィル)にできるよう工夫されており、長期間耐用可能な柱(スケルトン)などと分けて考えられていることが特徴的です。
たとえば一般的な給排水は住戸内にパイプスペースがあり、従来であればパイプスペースの近くにしか水周りの設備を入れることができません。それに対し、KSI住宅は共用部にパイプスペースを設置して「排水ヘッダー」という機器で水を集約しているため、住戸内の排水管の位置を変えるだけで水周りの位置を変えることが可能です。

そして、一般的にはコンクリートの中に埋め込まれていて移動ができない電気配線も、天井貼り付け型の配線「テープケーブル」を使用して移動できるようにすることで、照明設備の箇所も自由自在! 天井の壁紙の下にテープケーブルを貼ることで配線を行っているそうなのですが、実際に触ってみるととても薄く、天井の壁紙の下に貼れるというのも納得でした。

次に2階へ上がってみると、排水ヘッダーが実際どのように配置されているかやテープケーブルがどのように貼られているかを見ることができます! 実際の住戸の床にどう配管されているのか見られるなんて貴重な体験でした。

住宅の進化が感じられる! 『居住性能棟』


続いて向かったのが『居住性能棟』。最初に見学したのはユニバーサルデザイン室でした。ユニバーサルデザイン室では、その名の通りお年寄りや身体障害者に限らず誰でも使いやすいつくりになっており、その工夫はさまざまなところに。たとえばベッドは電動で高さ調節が可能、立ち上がる際は立ち上がりやすい高さまで上げて、寝る際は転落したとしても危険が少なくなるように下げて、という風に場面によって使いやすいようになっているとのこと。さらに、トイレやお風呂といった水周りの設備がベッドルームに増設されているので、移動の負担も最小限に抑えられていました。


そしてユニバーサルデザイン室で私が一番感動したのが、「コックピット型キッチン」です。
不思議な形のキッチンですが、これは車いすでの調理を想定したつくりとなっており、引き出し式の左右のワゴンを引っ張るとそのまま包丁とまな板を置いて使えたり、一見すると不便そうに見えるキッチン台のでっぱりも、手をかけることでラクにキッチン内を移動することができる設計になっています。車いすに乗っていなくても、この形のキッチンであれば1歩圏内でキッチン内を行き来できるのでとても使いやすそうです。


居住性能棟にもう1つあるのが遮音体験室。素材違いの床が何箇所かある他、ドアや窓などがついており、それぞれの遮音性能を体験することができます。中でも個人的に驚いたのが床の音体験。床の遮音性能を比較するため、上下階で同じように床材が貼ってある部屋が用意されていて、上の部屋でそれぞれの床材にスプーンや大きなボールなどを落とした際の音を下の部屋で聞き比べをする内容になっています。床材の違いやカーペットによる遮音性能を実際に体感してみると、遮音機能のついている床は通常の床と比べると確かにかなり音が抑えられていますが、それ以上に驚いたのがカーペットの遮音性能の高さです。遮音機能のついていない床でもカーペットを敷くことで、ほとんど気にならないレベルの音まで音が抑えられていました。床材を変えることは難しくても、カーペットを気になるところに敷くだけでかなりの遮音効果が期待できるかもしれません。


1つ上の階で実際にどのような動作をしているかをモニターで見ながら、下の階ではどのように聞こえているかを体験することができます。

集合住宅の歴史を体験!『集合住宅歴史展示棟』

最後に見学したのが、歴代の集合住宅を実際に見ることができる『集合住宅歴史展示棟』です。この展示棟の中にある部屋は再現したものではなく、実際にあった部屋を移築したものなので棚やポスターまで当時のままのものが残っているんだそう。築年数ごとに見ることができるので技術の進歩を感じられて、当時を知らなくても楽しむことができます。
早速、古い年代順に体験してみました。

代官山アパート(1927年築)



代官山アパートは独身住戸と世帯住戸の2種類を見ることができます。
最初に見たのは独身住戸だったのですが、居室に寝台しかないシンプルな造りのワンルーム(風呂トイレ共用)で、思ったよりは広い印象でした。収納は寝台の下しかないので物はあまり置けないかもしれませんが、デザインは今から見てもおしゃれで需要がありそうです。キッチンはついていませんが大きな食堂があり、そこで食べるのが主流だったとのこと。好みは分かれるかもしれませんが、個人的には通える食堂が近くにあるのはうらやましい……。


世帯住戸のほうを見てみると独身住戸の倍ほどの広さで、台所やトイレがついている以外は似たデザインですが、当時は家族全員でこの広さに住んでいたのだそうです。2部屋に家族全員……私には難しいかもしれませんが、ガイドさんに話を聞いてみると、代官山アパートは当時大人気で、価格も高かったのだそう。そのほかにも世帯住戸でおもしろかったのは、当時使用されていたという茶だんすです。建物の備え付け設備ではありませんが、当時の様式なのか機密性が高く、1つ引き出しを閉めると中の空気に押されて別の引き出しが開くという、無限引き出し体験ができます(笑)。こういったおもしろさがあるのも、この施設ならではですね。

蓮根団地(1957年築)



2番目に展示されているのが、蓮根団地というファミリー向けの住戸でした。
この頃に「食寝分離」という考え方が誕生したそうで、ご飯を食べたらちゃぶ台をどかして布団を敷くスタイルではなく、はじめからダイニングキッチンと居室で空間が分かれています。当時は無かったダイニングキッチンを普及させるためにテーブルを最初から作りつけて賃貸したところ、ダイニングキッチンは当時あこがれの存在となったのだそう。いわゆる2DKのつくりですが、同じ2部屋でも代官山アパートと比べてかなり広々と感じるところから、ダイニングキッチンがあこがれの存在となったのも頷けます。

多摩平団地(1958年築)



続いて展示されていたのが、低層2階建ての多摩平団地です。
テラスハウスという造りの集合住宅ですが1住戸で2階分居住スペースがあります。当時としては珍しく専用庭が存在し、庭を介した独特のコミュニティが育まれたというのも美しいエピソードですね。一見戸建て住宅のような造りでも、コミュニティが生まれるのは集合住宅のメリットかもしれません。家の中の設備では、ついに台所が最近でも見かけるステンレスのシンクになっており、だいぶ現代に近づいてきた印象でした。


かわいい玄関ドアにのぞき穴がついています。

晴海高層アパート(1958年築)

最後に展示されていたのが、晴海高層アパートというエレベーターのある10階建ての大型集合住宅です。
この集合住宅は最近はあまり見かけないスキップフロア方式が採用されていました。その方式では非廊下住戸と廊下住戸の2種類が存在するのがおもしろいところ。廊下住戸はエレベーターから直接廊下を通って住戸に入れるものの部屋が狭く、非廊下住戸は広いけれどエレベーターから廊下を渡りさらに階段を使わなければなりません。私は広い部屋が好きなので非廊下住戸を選ぶと思いますが、あなたならどちらを選びますか? 当時ではあまりに大きな集合住宅で来訪者が迷うことも多かったため、大きな全体地図があったというから驚きですよね。

居室の中を見てみるとほかの展示と同様2部屋のつくりのはずなのに、とても広く感じます。その秘密が畳にあるのだそう。通常の畳より長くつくり、ふすまと同じ幅にすることで目の錯覚で広く見せているのだとか。確かに通常の畳よりもとても広く感じるので、ぜひ見学にいった際は体験してみてください。


当初2階に行くのにもエレベーターで3階に上がってから2階に降りなければならなかったため、直接2階に上がれるよう後からつけられた螺旋階段

住宅愛にあふれた見学会がURであーる!

見学会に参加してみると、住戸の歴史に興味が有る無いに関わらず思わず引き込まれてしまうような展示ばかりで圧倒されます。展示といっても見るだけではなく、体験できるところがメインとなっているので、小学生くらいの子どもでも飽きることなく楽しめるのではないかと思いました。最新の設備や住戸ももちろんおもしろいですが、特に歴史館は当時を知る方は懐かしく、当時を知らない方にとっては驚きがあるのではないでしょうか。この住宅愛に溢れた施設見学、ぜひあなたも体験してみてください!

≪見学のご案内≫
公開日:月~金(祝日年末年始等を除く)
公開時間:13:30~16:30
住所:〒192-0032 東京都八王子市石川町2683-3

電話またはホームページにて要予約
TEL042-644-3751
URLhttps://www.ur-net.go.jp/rd/

タグ TAG