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ダイワハウスの防災配慮住宅『災害に備える家』で取り組む“二次災害への対策”

2019.10.21

2016年4月14日夜から16日未明にかけて発生した熊本地震から今年で3年。気象庁の観測史上ではじめて震度7の揺れを2度観測した未曾有の大地震は熊本を中心とする九州北部に大きな被害をもたらし、いまも被災した各地に大きな爪あとを残しています。

昨年2018年は相次ぐ大型台風の襲来により近畿・中国・四国地方で洪水や暴風による家屋の倒壊、浸水、停電が発生。9月6日未明には北海道胆振東部地震が発生し、北海道厚真町で震度7を観測するなど、日本列島が大きな災害に見舞われ続けた1年となりました。もはや日本のどこでいつ大きな災害に見舞われても不思議ではなくなってしまった現在、少しでも安心した日常を送れる仕組みを作れないものか──。そういった現状で住宅メーカーには、従来の防災という観点から一歩進んだ取り組みを行うところも出てきました。

そのひとつが、工業化住宅のパイオニア『ダイワハウス』。

同社が展開する防災配慮住宅『災害に備える家』では、耐震性に加え、災害後の停電や台風などの強風による窓ガラスの破損・飛散といった “二次災害”をカバーしているといいます。その詳細について、大和ハウス工業株式会社 住宅事業推進部 主任の佐藤 文さんにお話を伺いました。

「家が地震に耐えられても、被災後も住めなければ意味がない」

── 『災害に備える家』開発のきっかけをお聞かせください。

佐藤さん:昨年の西日本を中心に発生した豪雨や台風では、従来のハザードマップ(行政が災害の発生を懸念していた地域)を超える広い範囲で大きな被害が発生し、豪雨による浸水域や被害もまさに「想定外の連続」といえるものでした。同年発生した北海道胆振東部地震においても、「まさか北海道で震度7の地震が発生するなんて」と、多くの人が想定していなかったのではないでしょうか。

かねてより地震対策に力を入れていたダイワハウスの住宅は倒壊を免れることができたのですが、現地のお客様からは「窓や瓦が割れて、家のなかに飛散してしまった」というお申し出がありました。家が地震に耐えられても、家のなかに安心して住むことが出来ない状態では意味がない、これは対策を急がなければ── と、昨年の出来事をきっかけに新たな住宅のかたちとして『災害に備える家』の企画を進めてきました。

“避難所基準”の強度で割れや飛散を防止する「防災防犯ガラス」

── 『災害に備える家』では、どのような仕組みが新たに取り入れられているのでしょうか。

佐藤さん:大きく3つの仕組みが取り入れられているのですが、そのひとつが『防災防犯ガラス』。災害時に「避難所」として開放される公共の建物に使われるガラスと同等の強度を住宅でも実現するものです。これまで、2枚の板ガラスのあいだに樹脂を入れて衝撃を逃がす「強化ガラス」が一般的でしたが、『防災防犯ガラス』では樹脂の厚みを従来の2倍に強化し、熱と圧力で圧着させています。万が一飛来物や衝撃によってガラスが破損しても破片がほとんど飛び散りません。

蓄電池+エネファームで10日間※の電源供給が可能『全天候型3電池連携システム』

── 災害に伴う停電への対策にも力を入れていると伺いました。

佐藤さん:地震発生時、もっとも大きな被害を受けるライフラインが電気です。2016年の熊本地震以降の災害による被害発生総戸数のうち、じつに9割近くが停電に見舞われました。『災害に備える家』では、停電時にエネファームの電気も蓄電・放電できるように自動で切り換える「切換盤」を開発。太陽光発電とともに、これらが作り出した電気を蓄電池で蓄える『全天候型3電池連携システム』を構築しました。太陽光発電に依存しないので、雨天が連続しても約10日分※の電力を安定供給することができます。
※水道・ガスが使える場合。

── 災害時も電気が使えることは大きいですね。

佐藤さん:最大出力は2000Wですが通常の生活どおりに電気が使用できるので、周囲が停電している状況でもテレビで災害情報をチェックすることができます。蓄電池を導入されたお客様からは、いつもどおりの生活が送れるので、「周囲が停電していることに気づかなかった」という声もあったほどです。エネファームはガス給湯器としても稼働しますので、停電が発生しても温かいシャワーを浴びることも可能です。災害時に発生した停電は、完全復旧に8日間ほどかかるケースもありました。長期化が予想されるライフライン障害に対して、できるかぎり普段どおりの生活を維持できる仕組みづくりは特に力を入れたポイントです。

また、災害時にしか活用できない仕組みでは、導入に戸惑いが出てしまい、備えることに繋がりづらくなります。その点、今回の仕組みでは普段の暮らしでも光熱費削減になりますので、万一に備えた導入がしやすい点も大きいと思います。

揺れを軽減し、“内外装の損傷”を最小限にする技術を導入

──『災害に備える家』の耐震面も興味深いところです。

佐藤さん:耐震面においては「エネルギー吸収型耐力壁『KyureK(キュレック)』」というダイワハウス独自の技術を導入しました。強い揺れを受けると上へ下へとしなやかに動く独自の技術「Σ形デバイス」により、地震エネルギーを効果的に吸収。このデバイスを2つ配列したのが『KyureK』です。ダブルデバイス化することで、大地震によって発生する“揺れのズレ”である「応答変位」を最大1/2低減します。

巨大地震の際、建物の変形が大きいと家の構造が無傷でも、クロスのヒビなどの被害が発生することがあるので、応答変位量を低減することが重要です。家の構造そのものに問題がなくても、クロスにヒビの入った状態で生活することは精神的にも大きな不安を抱えることになりかねません。文字通りの「現状」を維持することが、安心して普段どおりの生活を送るためにも欠かせない要素と考えています。

── 一般的な耐震機構のなかには専用部材など、定期的な交換やメンテナンスが必要なものも少なくありませんが、『KyureK(キュレック)』の場合はどうなのでしょうか。

佐藤さん:『KyureK(キュレック)』にはシンプルな鉄製の鋼材のみを使用しています。経年劣化が避けられないものや、交換調達が困難になる可能性が高い特殊な部品は使用していないので、同じ性能をほぼ半永久的に維持することができます。

── 維持するためのメンテナンスがかからない配慮はとてもうれしいですね!

阪神大震災を経験した開発メンバーが込めた思い

開発メンバーの中には、過去に震災を経験した人も──。1995年1月17日、気象庁の観測史上で初めて震度7を記録し、神戸・淡路島一帯を中心とする関西地域に大きな被害をもたらした阪神・淡路大震災(M7.3)。『災害に備える家』の開発に携わったメンバーにも、幼少期に被災経験を持つ人が多くいるといいます。

佐藤さん:開発メンバーの中には、震災で大切な家族や友人を失った経験を持つ人もいます。「災害に備える家づくりを通して、自分たちと同じような経験を味わう人をひとりでも少なくしたい」という想いから入社を決めた人たちなのです。

彼らの経験は、『災害に備える家』の設計にも大きく反映されています。この家ではリビングの一角を一般的な正方形ではなく縦型の畳敷きにする『musubiコーナー』を設けることで、布団を敷ける形にしています。これは、メンバーのひとりが「地震の夜、家族全員がリビングに集まって行動をともにし、安心することができた」という実際の体験をもとにして導入されたものなのです。

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いつ大災害に見舞われてもおかしくない現在。自分たちだったら、このような家がほしい──。自らの被災経験を未来へ活かし、当事者の立場に隅々まで寄り添った『災害に備える家』は、これからの時代の新たな安心の形を提供してくれそうです。

【参考リンク】
ダイワハウスの防災配慮住宅 『災害に備える家』

(取材・文 天谷窓大 編集 トランジットデザイン)

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