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特集

ミニマル生活を実践するコツをミニマリスト“おふみさん”に聞いたら、意外と難しくないと思えてきた話

2018.10.19

「ミニマリスト」という言葉をご存知でしょうか? 朝日新聞出版発行の「知恵蔵」によると
“持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らす人。自分にとって本当に必要な物だけを持つことでかえって豊かに生きられるという考え方で、大量生産・大量消費の現代社会において、新しく生まれたライフスタイルである。”
とありますが、実際の暮らしぶりやミニマリストになろうと決めたきっかけは人によってさまざまなようです。今回は、ミニマリストの実態を探るべく自身の生活の一部をSNSやブログなどで発信され、『ミニマリスト日和』や『ミニマリストの部屋づくり』など数々の本を書かれている“おふみさん”のご自宅に伺ってインタビューをしてきました。


おふみさん
Twitter: @ofumi_3
Instagram: ofumi_3
ブログ:ミニマリスト日和

著書
ミニマリスト日和
ミニマリストの部屋づくり
服を減らせば、おしゃれになる
夢をかなえるノート術

ミニマリストと暮らし

――ミニマリストになったきっかけから教えてもらえますか?

おふみ) 最初のきっかけは運が悪いことが続いてしまい、願掛け的にトイレ掃除をはじめたことでした。それまでは休日でも他のことに集中したくてつい家の掃除を後回しにしてしまっていたのですが、仕事で自分ではどうにもできないトラブルが続いてしまい、あまりにも運が悪いと感じて「運 悪い なぜ」といったワードで検索してみたのです。その際に「掃除ができていないと運気が下がる」という内容の記事を読んで、毎日のトイレ掃除から始めてみたのですが、掃除をしているとすっきり感がありますし、家に愛着が沸いてリラックスできるようになりました。それからしばらくして、当時トラブルになりかけていたことも解決して「掃除をするといいことが起こるんだな」と思いました。それから、徐々に掃除の範囲を広げていったのです。
掃除をしているうちに気づいたのですが、物が多いといちいち片づけてから掃除をしなければならないので掃除がしにくいんですね。そこで、掃除をしやすい状態をつくるために物を減らしていきました。
その頃ちょうど引っ越しの時期が近づいていたということもあって、引っ越しを機会に暮らしをコンパクトにしたいという思いで、78㎡の一軒家から44㎡の2DKへ引っ越しました。住む場所自体の容量を減らして、それに合わせて物を減らしたというのも大きかったと思います。

――物を減らしてから気持ちの変化などはありましたか?

おふみ) 物をたくさん持っていた頃は家事が今よりも大変だったので、家事を終わらせているうちに休日が終わってしまって「今日もなにもできなかった…」と自己肯定感が下がるような日が多かったです。でも物を減らしてからは家事の負担が減ったので、休日も家事をささっと終わらせて外出したりできるようになりました。そうやってフットワークが軽くなったことで、気持ちも軽くなったのが大きな変化です。今思うと休日も外に出たいタイプの人間なのに、家事に時間をとられてずっと家にいたので気持ちも落ち込んでいたんでしょうね。

――家事で特に楽になったなと思うことはどんなことでしょうか。

おふみ) 掃除機がけと食器洗いですね。以前住んでいた一軒家では掃除機がけに20分以上かかっていたのですが、物が少なくなってスペースも狭くなったので1分半くらいで終わるようになりました。
食器の数も減らしたので、食器洗いが楽になりました。数が少ないので、使ったらすぐに洗わないと他に使える食器がありません。おかげでこまめに洗うようになり、洗い物に時間がかからなくなりました。

――家事を楽にするために家電なども買いなおされたんですか?

おふみ) まず掃除機をコードレスのハンディクリーナーに変えました。コードを何度も抜き差しするというストレスから解放され、さっと掃除機をかけられるようになりました。これまで一番嫌いな家事だった掃除機がけが今では一番好きな家事に変わりました。洗濯機も、乾燥機付きの洗濯機に変えたことで「洗濯物を干す」という家事を手放しました。
あとは以前は42型のテレビを持っていたのですが、あまり見ないわりに裏側などの掃除が大変だったので、持ち運べるタイプの小さなテレビに買い替えましたね。

――著書『ミニマリストの部屋づくり』ではミニマリストの定義について「物の適量を探しながら暮らしていて、少ないほうが心地いいと感じる人」のことだと仰っていましたが、今でもご自身の適量を探し続けられているのでしょうか。

おふみ) そうですね。現在住んでいるこの部屋は、一軒家から引っ越した44㎡の部屋よりさらに12㎡ほど狭くなったのですが、その分だけ部屋に入りきらなくなったので物を減らしました。それに加えて先日私が忌み嫌っている虫が出てしまいまして……部屋用の虫よけスプレーを手軽に隅々まで撒ける状態にしたいという目標ができたので、もう少し物を減らしたいと思っています。物の適量というのは収納のスペースだけでなく、目指す環境や暮らし方によっても変わると思いますね。

すっきりとしつつ、飾りのあるインテリア。写真下部の4つの茶色い箱には2人分の本を入れており、本はそれ以上は持たないと決めているそう。

ミニマリストと身軽な生活

――以前は物をたくさん持つ「マキシマリスト」だったそうですが、捨てるのに抵抗はなかったですか?

おふみ) もともとは「捨てる」という概念がなくて、物は持っていればいるほどいいと思っていました。夫と一緒に暮らし始めた時も、持っていた家具を二人ともすべて持ち込んでいて、二人暮らしなのにソファーが二台もあったり、椅子が必要以上にたくさんあるような状態でした。でも掃除をしたり引っ越しについて考えていくうちに、コンパクトに暮らすほうが身軽でいいなと思いはじめました。
引っ越す前は一軒家を建てようと考えていたのですが、実家の京都に夫婦で遊びに行った際にとても楽しくて、「京都に住むのもいいかもね」という話になったのをきっかけに、家を持たない暮らしを検討するようになりました。家を持たなければその時に住みたい好きな場所で暮らすことができますし、荷物が少なければスペースが少なくて済むので家賃も安く済みますよね。必要なお金が少なければ、お金に縛られずに好きなことを仕事に選ぶこともできますし、人生の選択肢が広がるなと思ったんです。一回気持ちが切り替わるとミニマリストの方のブログなども読むようになり、そういったブログに掲載されている“すっきりとした部屋”を見ては「私ももっと身軽になりたい」と思って、どんどん物を減らしていくようになりました。

――物を減らす段階では、どのようなものから減らしていきましたか?

おふみ) 当時は一軒家でキッチンカウンターがあったのですが、そこにはどこに置いていいかわからないようなものがどんどん集まって常にごちゃごちゃでした。飾る場所が見つからずに行き場を失っていた置物など、雑多なものが並んでいました。そういった片づける先のない物=持っていなくても困らないものから減っていきましたね。今思えばもらえるものは何でももらってしまっていて、好きでもなく必要でもないものが溜まってしまっていました。

――物を減らすうえで決めたルールなどはありましたか?

おふみ) 一軒家から小さい部屋に引っ越したときに、物が収まりきらなかったので整理用の収納グッズを買おうかと思ったのですが「今ある収納におさまる量に物を減らす方向で考えよう」と夫に言われて納得。以来、ものが溢れても収納を増やさず、物を減らすようにしています。収納を増やしてしまうとそれに合わせて物も増えてしまうので、収納するもの自体に不便が発生した時は買い替えたりもしますが、「収納量は増やさない」というのは気を付けていますね。

服も減らし現在は押し入れに2人分がすべて収まるようになったとのこと。押し入れ収納は奥行きの活かせるラックなどがおすすめだそうです。

――おふみさんが捨てるのに一番時間がかかったものはなんでしたか?

おふみ) 服を手放すのは時間がかかりました。今でこそ「夏なら6着」と決めた数に絞っていますが、夏服だけで20着以上あったものを18着にして、16着にして……という風に徐々に減らしていったので時間がかかりました。大きなものではイスやソファーですかね。一軒家から引っ越した際にソファーやダイニングチェアなどを2人分まで減らしたのですが、破損もしていない高額なものは引っ越しというきっかけがなければ処分しにくかったと思います。
それから、最後まで根強く残っていたのは自作のアクセサリーです。自分で作った分思い入れもありますし、小さくて場所も取らないのでついつい残しがちになってしまいますね……いまだに若干残っています(笑)。

――物を手放すのは勇気がでなくてなかなか手を付けられないという方もいると思うのですが、そういう方はなにから始めるのがおすすめでしょうか。

おふみ) たとえば服が好きな方であれば、いきなり服から捨てるのは難しいのではないかと思います。自分にとって一番好きなジャンルから手をつけるのは難易度が高いと思うのです。なので、「好きではないけれども、たくさん持っているもの」から手放していくのがおすすめです。いつの間にか溜めてしまっていたDMや公共料金の明細、何年も前の雑誌など明らかにいらないものからであれば、手を付けやすいのではないでしょうか。そういったもので成功体験を積み重ねていって、次第にサイズの大きなものや量の多いもの、思い入れのあるものなどに手を付けるのがいいと思います。不必要でもサイズが小さいものはそのまま持っていても部屋を圧迫しませんが、サイズの大きい不要なものは圧迫感が大きいので、要不要の判断は下しやすいと思います。手放す作業は少し面倒ですが、そのあとに生まれるスペースが広く、達成感も大きいです。大きなものを手放すことができたら、次に手放したいけど手放せない物。手放す作業を繰り返すうちに要不要の判断能力が上がってきているので、好きなジャンルのものでも判断ができるようになっているはずです。次にあれば便利かもしれないけど使っていない小さいサイズのもの。たとえばアクセサリーなどの小物類はスペースを取らない分捨てなくてもある程度収納できてしまいますし、いつか使うかもという考えがよぎって、いざ手放そうとすると難易度が高いと思います。いずれそういったものにも着手できるようになるはずです。そうやって徐々に難易度を上げて成功体験を積み重ねながら少しずつ手放していくのがいいのではないでしょうか。

ミニマリストと家族

――『ミニマリストの部屋づくり』では「ミニマリストになってからご夫婦の喧嘩が減った」と書かれていましたが、どのような影響があったのでしょうか。

おふみ) 洗い物や風呂掃除など家事を分担していたのですが、夫が家事を後回しにしてしまうことが多く、夫の分担なのに自分がやらなければならないときに、私の怒りのボルテージが上がって喧嘩になることが多かったんです。ですが、物が減ってから家事にかかる労力がかなり減ったので、分担制をやめて私がほぼ全部を担当することにしたんですね。全部の家事を自分が担当していると思うといくら自分が家事をやっても腹が立たないですし、相手に「やって」と言う必要もなくなったので喧嘩にならなくなりました。

――物を減らしているときに旦那様のものはどうしていましたか?

おふみ) 夫の物を私が捨てたことは一度もないですね。何があっても自分以外のものは勝手に捨てないと決めています。自分がそれをされたらいやですし、喧嘩のもとです。我が家の場合は、夫の見ている前で自分の物を捨てて、「すっきりした!」と喜んだりしていたら、触発されて夫も自然と自分の物を捨てるようになりました。自宅に遊びに来てくれた友人も、部屋で過ごすうちに「帰ったら私も家を片づけたい」と言うことが多いので、すっきりした空間や片付いた状態というのは、「自分の部屋もすっきりさせたい」という気持ちを誘発するのではないかと思っています。また、佐々木典士さんの「ぼくたちにもうモノは必要ない。」という本の取材に来ていただいたことがあるのですが、「収納の中までじっくり見られるかもしれないね」と言って夫婦二人で掃除をしたりして、そのあたりから夫も火がついて、収納の中といった外から見えない場所も片付けようという意欲が湧くようになりました。人に来てもらう前夜などは片づけが特にはかどります。

――物を捨てるのに非協力的な家族にあえてアプローチするなら、どんな方法がいいと思いますか?

おふみ) そうですね……たとえばリビングには個人の物を置きっぱなしにしないというルールを作って、個人の物は個人のスペースに置くということを徹底することですかね。共用のスペースに個人の物を持ってきても、必ず個人のスペースに戻してもらうようにすると、共用部分はすっきりとした状態を保つことができますよね。すっきりした空間で過ごしていると、物が多かったりごちゃごちゃしたスペースが気になるようになると思うので、自然と自分のスペースもきれいにしようとするのではないでしょうか。散らかっていても全然気にならないタイプの人もいますが。もしそうであっても、共用部分のすっきりさは保てます。「個人スペースは自分で管理してね」と放任して、共用部分だけに目を光らせるのが、精神的にも楽なのではないかと思います。

ダブルベッドを手放し現在は寝袋で寝ているそう。簡単に干すことができて衛生的ですし、簡単に移動させることができます。

まとめ:物を減らすというのは「目的」ではなく「方法」

ミニマリストの方は「物を減らす・物を持たない」という点にフォーカスして伝えられがちですが、おふみさんへのインタビューを通じて、必要最小限の物で暮らすというのはあくまでも「心地よい生活」や「自分らしく暮らす」ための方法の1つであって、決して物を減らすことを目的とはしていないことを感じました。おふみさんはインタビューでミニマリストになってから内面も変わったとおっしゃっていましたが、物を捨て始めてからはとにかく「もっと身軽になりたい」という気持ちが強かったのだそう。物がたくさんある様子は一見豊かに見えますが、自分が暮らしたい環境づくりのために物を手放すことで得られる身軽さというのも、とても贅沢なことだと、今回のインタビューを通じて思いました。必要な物や必要な物の量も人それぞれで、自分の持っている物に対して「本当に必要なのか」と問いかけることは、自分探しのような側面もあるのかもしれません。

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