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DIYで賃貸住宅の壁に”穴を開ける”-「賃貸DIYガイドライン」リリースイベント潜入レポート

2018.04.02

全国で開催されているリノベーションスクールの発祥、HEAD研究会がリリースした「賃貸DIYガイドラインver.1.0」。
難しい法律の知識をわかりやすいフローチャートにすることで、貸し手も借り手も安心してDIYを行えるという、新しい取り組みの第一歩が踏み出されました。
「日本の賃貸住宅を安心・自由と愛あるかたちに」をテーマに、賃貸オーナー、管理会社、入居者の思いがぶつかった、リリース・ディスカッションイベントの様子をお伝えします。

パネラー
HEAD研究会 不動産マネジメントTF委員長 橋本樹宜(協永ソフトエンジニアリング株式会社)
HEAD研究会 リノベーションTF 新堀学氏(新堀アトリエ一級建築士事務所)
HEAD研究会 リノベーションTF 宮部浩幸氏(近畿大学、株式会社SPEAC・東京R不動産)
株式会社リクルート住まいカンパニー・スーモ編集長 池本洋一氏
HEAD研究会 不動産マネジメントTF 谷尚子氏(株式会社ハウスメイトパートナーズ)
HEAD研究会 リノベーションTF 佐久間悠氏(株式会社建築再構企画)

「賃貸DIYガイドライン」の目的とは? 自由のために、安全を知っておく

安全なDIYが賃貸住宅を救う!? 「DIY型賃貸」が持つ、魅力とハードル

新堀学氏(以下、新堀) 私が所属しているのはリノベーションTF(タスクフォースの略、以下同様)といって、リノベーションに関わる仕事などをしている人が集まっています。そして今回のきっかけを作った谷さんは、不動産マネジメントTFに所属しています。これまで、賃貸住宅のDIYについて、様々な課題についてそれぞれのTFで考えることはありましたが、一緒に考えたのはこの取り組みが初めてでした。

二つのTFが出会うことで「賃貸DIYガイドライン」というものが浮かび上がってきたんです。
建物は、建築時に法律の確認を取って建てられています。ところが、その後の住まい手によって、建物の使い方は変わっていきます。ここ数年では、自分が住みたい暮らしになるように、与えられた空間を変えて行くDIYという動きが増えてきました。

良い方向に建物が変わって行ったものもありますが、場合にによっては、制限や条件、必要な知識や法律があることを知らないままDIYを行い、安全が損なわれているケースがあるのではないだろうか。その危機感が、共通意識として浮かび上がってくるようになりました。

これからお話する中で出てくる、「内装制限」という言葉は、普段意識して用いる言葉ではありません。

「内装制限」が安全に関わる言葉だということを多くの人と知った上で、賃貸で自分たちの生活を自分の手で作っていくというのは、素晴らしい事だと思います。その”自由さ”を確保するために、安全をきちんと押さえておこうというのが、「賃貸DIYガイドライン」の目的です。
「DIY型賃貸は革命」と話す池本氏

池本洋一氏(以下、池本) DIYという言葉がよく聞かれるようになったのは、2013年頃と言われています。かつては「日曜大工」と呼ばれていましたが、近年では若者を中心に「オシャレなもの」という認知を得るようになりました。入居者が壁紙を選ぶことができる賃貸住宅や、DIY専門店が登場し、アンケートでも「とても利用したい」、「やや利用したい」を合わせると約半数の方が「借主負担のDIY型賃貸を利用したい」と回答しています(リクルート住まいカンパニー2014年リノベーション・DIYに関する調査より)。
古着を着こなしてファッションを楽しむように、自分の住まいもカスタマイズしたいという人が増えてきたのです。
一方で、賃貸住宅は原状回復のルールによって、自由にDIYを行えないという現実があります。先ほど「借主負担のDIY型賃貸を利用したい」と回答した人に、実際にどんなDIYをしたいか聞いたところ、”壁に棚板をつけたい”や”壁にフック穴を開けたい”といった、決して大掛かりではないものが大半でした。今の賃貸住宅では、それさえできません。築年数の殻を破れない賃貸住宅は、誰にも愛されない住宅といえるでしょう。
入居者がこだわりをもって部屋作りをすることで、愛着が生まれ、長く住み続けられるのではないかと思います。そのための、革命的ともいえる「賃貸DIYガイドラインver.1.0」のきっかけと思いを、これから聞いていきましょう。

原状回復のジレンマ 「DIY賃貸ガイドライン」ができるまで

原状回復のルールは空室の原因の一つになっています、と語る谷氏
谷尚子氏(以下、谷) こんばんは、株式会社ハウスメイトパートナーズの谷です。株式会社ハウスメイトパートナーズは、管理戸数が約20万3000戸。創業から42年、地道に不動産管理をしている会社です。近年、会社の歴史とともに管理する物件も古くなり、空き家に困るようになりました。

30年前の建物は、原状回復を行うと30年前の建築当時に戻ってしまいます。不動産情報をインターネットの写真で見て、内見するかどうかを決められる時代に、築年数が長く、魅力がない物件は内見に来てもらうことも難しくなってきました。

でも、DIYをする人たちにとって、自分で古い部分を自分でカスタマイズできれば、それは物件の魅力として映るのではないかと考えたんです。競争力を失いつつある物件を原状回復が不要な「DIY型賃貸借」にすることで、物件の価値を上げたいと思って、この取り組みをはじめました。

なぜ、賃貸管理業者は「原状回復」のルールを定めているのでしょうか?

谷)それは、もともと空室対策としてDIYを許可しようにも、我々賃貸管理業者は建築や工事に詳しくなく、人や財産の安全を守れるだけの知識がなかったためです。

例えば、入居者さんに「壁に穴を開けたい」と相談されたとします。私たちは、壁紙の向こう側がどんな素材でできていて、どれくらいの耐久性があるのかといったことが、わかりません。壁が脆い素材の場合、設置物が落ちて人がケガをしてしまう危険性があるかもしれません。壁紙の張り替えにについても、素材や貼る場所によっては、火災の原因になる可能性も考えられます。

そのため、残念ながら「原状回復」が一律のルールになっているのが現状です。

理解不能な建築用語を話す「ケンチク星人」との出会い

谷)賃貸DIYの壁を感じていた私は、自分の研究テーマを決める際、内装制限がわからなくて困っていますと橋本委員長に相談しました。すると、「我がHEAD研究会にはリノベーションTFがあるよ」と、私たちにはまったくわからない建築の専門用語を話す、ケンチク星人の3人を連れてきてくださいました。

取り組みをはじめてすぐに、建築で使う言葉と、不動産管理で使う言葉が全然違うことがわかりました。お互いの言葉を翻訳するだけでは足りず、基準となる言葉を探す必要があったのです。

「賃貸DIYガイドラインver.1.0」のフローチャートは、登記簿謄本の文言で書かれています。建築基準法とをはじめとする多くの法律や制限を、ケンチク星人の3人が、管理会社や賃貸オーナーさんが理解しやすい登記簿謄本の言葉を辞書に、翻訳してくれたのです。

「賃貸DIYガイドラインver.1.0」とは ~フローチャートで、難解な法律を解きほぐす~

「ケンチク星人」のお一人、佐久間氏
今回リリースされた「賃貸DIYガイドラインver.1.0」は、建築基準法の中で定められた、防炎のための内装の仕上げ材料の性能の決まりである、「内装制限」に焦点を絞って作成されています。

例えば、建物の構造や延べ床面積、お部屋が建物の中でどんな位置にあるのか。など、イエス・ノーで答えていくだけで、建築基準法の知識がなくても、内装制限をクリアすることができるという、とても画期的なフローチャートになっています。

これから多くのケースと照らし合わせを行い、内容の精度を高めながら、公開に向けて改修を重ねていく予定だそうです。続報が待たれます。

大家さん・入居者さんに聞く 驚きのDIY実例

大家さんも脱帽! 住まいを丸ごとキャンバスにした、入居者さんの正体とは?

谷)ここからは、実際の大家さんと入居者さんをお呼びして、実例をお話いただきたいと思います。

大家 阿部まさゆき氏(以下、阿部)私はDIY大家団を結成し、団員同士でリフォームを手伝う活動を行っています。今回の事例は、私たちが1年8ヶ月かけてリフォームした一軒家で、こちらの橋場さんが入居されています。

谷)1年8ヶ月のリフォームはどのような内容ですか?

阿部)まず、シロアリの被害があった壁を壊し、大工さんに石膏ボードを貼ってもらいました。ダイニングキッチンの壁は繊維壁だったので、漆喰を塗って防火性を上げています。また、お風呂場の横に、洗面台と洗濯機置き場を兼ねた脱衣所を作りました。ほかには、キッチンの脇の勝手口を塞いで、冷蔵庫を置くスペースも作っています。

谷)それは大がかりですね。

阿部)はい。これで貸せる状態になった、と自信をもって貸し出したんです。もし他にDIYをしたいところがあればどうぞ、という気持ちから「DIY可物件」で貸し出しました。
物件を1年8ヶ月かけてリフォームされた阿部氏
谷)その後、橋場さんから「DIYをしたので確認してほしい」と連絡があったんですね。

阿部)はい。特に制限などはしていなかったので、きっとDIYの自慢したいんだろうな、なんて思って見に行ったのですが…。

谷)とんでもないことになっていた、と。

阿部)はい(笑)
お仕事を知って納得! DIYで住まい作りをされた橋場氏
玄関を開けると、そこに阿部さんが知っているお家の面影はありませんでした。

廊下や壁の角にはレンガタイルが貼られ、照明はガラスのビンをカバーにした電球。飾られたドライフラワーがくすんだ風合いを醸す、ノスタルジックな雰囲気でまとめられたお住まいは、築年数を感じさせないほど魅力的に生まれ変わっていました。
橋場氏による賃貸物件の廊下DIY事例


橋場氏による賃貸物件の居室DIY事例実は、橋場氏のお仕事はポスターなどを手掛けるデザイナー。「次は2階も変えていきたい」と、丸ごとキャンバスになったようなご自宅のDIYを楽しまれています。

ペンキを壁や床に直接塗ることは、DIY可の賃貸だからこそできる、大胆なカスタマイズ。トイレのドアはテンシルシートを使って鉄製のように仕上げられ、表と
裏とで印象ががらりと違う凝りようです。まるで「だまし絵」のように、床に直接描かれた玄関マットに、会場から驚きの声があがりました。
橋場氏による賃貸物件の玄関DIY事例
谷)さて、阿部さん。このお部屋は「原状回復」してもらいますか?

阿部)絶対にしちゃいけません。ぜひ現状のまま、ご退去ください。

(会場笑)
予定時間をオーバーしても、質問が絶えませんでしたDIY型賃貸を取り入れた際に、DIYが好きな入居者さんを迎えるコツはありますか? という質問に、「大家さんがまずDIYを楽しむことが重要だと思います」と答えた阿部氏。
会場は熱気に包まれながら、「賃貸DIYガイドラインver.1.0」リリースイベントが終了しました。

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