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マンションの寿命ってどれくらい? 建替えや大規模修繕の時期はいつ? 技術開発で延びていくマンション寿命

2018.07.06

マンションにも寿命があると言われています。現在、マンションにお住まいの方、あるいはこれからマンションの購入を検討される方にとって、ちょっと気になるトピックスなのではないでしょうか。最近では「100年住宅」という建築もあるように、日々の技術革新によって住宅の寿命は伸びているとプロは言います。今回はそんなマンションの寿命について、建物の法的な部分や改修工事に関するコンサルティングを行っている株式会社建築再構企画の佐久間悠さん(代表/一級建築士)にお話しを聞いてきました。

近い将来に急増する50年超のマンション


出典:国土交通省 老朽化マンションの建替え等の現状について(2014年1月配布資料)

国土交通省のデータによれば、2018年度時点(2014年1月時点の推計)で、築30年超のマンションは約112万戸、築40年超で約68万戸、築50年超に至っては約5万戸供給されているとのこと。今後2033年には、築50年超のマンションは25倍以上の129万戸まで増えると予測されています。一般的に、大規模修繕工事は12~15年程度の周期で計画されていることが多いと思いますので、築50年超のマンションでは、多いところでは4回目の修繕工事が行われていると考えられます。

老朽化したマンションが増える中で、ずっと住めるよう維持していくことが非常に重要と言われています。しかし、「そもそも古いマンションが流通していた時代は、メインが4~5LDKなどで子どもがたくさんいる家庭を想定されて建築されていました。現在そういったマンションは実際の需要面でマイノリティですよね。修繕積立金が滞納されて工事ができないマンションも多数あります」と佐久間さんは言います。そこで、そもそも“マンションの寿命”とは何かについて、佐久間さんにいろいろと伺ってみました。

法定耐用年数でいうとマンションの寿命は47年!


参照:国税庁 主な減価償却資産の耐用年数(建物・建物附属設備)

国税庁のデータによれば、一般的な戸建てに多い木造住宅の耐用年数は22年、RCやSRCと言われるコンクリート造の耐用年数は47年となっています。

Q.このデータをどう捉えますか?

正直短いですね。そもそも“耐用年数”とは、固定資産税の原価償却がゼロになる年数を表したもので、物質的な寿命ではありません。一定の年月が経った土地が再開発されているケースや、土地や建物の所有者の変更による取り壊しなども含まれてしまっているので、これが“家の寿命”だと思ったら、それは誤りです」

Q.では、物質的なマンションの寿命とは?


「マンションが鉄筋コンクリート造で建築されていることが多いのは、皆さんご存じですよね。素材としてのコンクリートに寿命はないんです。よく「RC造」という言葉を聞きませんか。これは鉄筋コンクリート造といって、コンクリートに鉄筋を入れて建てる構造です。高層マンションなどですと、建物自体が揺れに耐えられる構造にしない大規模な地震が来た時に倒壊してしまいます。そのためにコンクリートの中に鉄筋を入れて建物自体の柔軟性を高める必要があるのです。この鉄筋こそがマンションの寿命を左右する原因になっていると言えます」


Q.
そもそもコンクリートは何でできているのでしょうか?


「セメントと石と水ですが、セメントに含まれる物質がアルカリ性なのです。しかし空気中の二酸化炭素と結合して、だんだん中性化していき中の鉄筋が錆びてきます。鉄筋が錆びついていくと性能が維持できていない状態になってしまうので、その兆候が見られる箇所は大規模修繕工事の対象となります。大規模修繕でも手に負えないほどの劣化、これが私の考えるところのマンションの寿命ということになります」


Q.マンションの構造にもいろいろ種類がありますよね?


「マンションは『RC造(鉄筋コンクリート)』や『SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート)』というものが多いですね。『RC造』は、コンクリートと鉄筋を組み合わせて建築していく構造です。『SRC造』も『RC造』と似ていますが、鉄骨造のフレームの外側をコンクリートで覆っているという工法です。RC造の耐性と鉄骨のメリットを兼ね合わせている工法です。どちらの工法も素材の重量が重いので、中・低層マンション向きの構造です。一方で、『鉄骨造』という工法があります。鉄骨で組んだ骨組みの上に、『ALC板』と呼ばれる、気泡が開いたコンクリートや、『押出成形セメント板』といったパネル状の外壁材をはめていくという構造です。RC造・SRC造と違って、コンクリートを乾かす時間をとらなくてよいので、次の工程に進めやすいという特徴があります。また軽量なことから超高層タワーマンションなどによく用いられてきた工法です」しかし、RC造やSRC造と比べると、比較的揺れが大きいという特徴があります。昨今ではコンクリートの技術が進み、超高層マンションでもRC造やSRC造のものも増えてきました。

Q.構造の違いによる、家の寿命の差異はありますか?


RC造・SRC造』と『鉄骨ALC造』に関しては、強さや安全性を見るとほぼ一緒です。強いて言えばコンクリートを塗り固めている『RC造・SRC造』の方がやや寿命は長いのではないでしょうか。お伝えした通り、『鉄骨造』は骨組みの上にパネルを張って作るため、パネル同士の間の止水処理についてはコーキングに頼るしかないため、コーキングが劣化すれば水が浸入しやすくなり、鉄骨やパネルを傷める原因になります。そのため『RC造・SRC造』と比較して、錆の進行が早く、寿命を短くしてしまうのです。ちなみに、コンクリート造と戸建てで一般的な木造建築を比較すると、やはり木造の方が寿命は短いです。木造の場合は雨漏りや白アリ、それから職人の技術など外的要因で本来の性能を100%発揮できず、建物の強度が落ちてしまう場合がほとんどです。本来木造建築は日本の歴史ある建築方法ですし、物理的な性能きちんと発揮されれば、コンクリート造に負けない高い耐性をもっているのも事実なんですが……」

Q.低層と高層マンションでの差異はありますか?


「一概には言えないですが、低層の方が寿命が長い傾向にあると言えるでしょう。なぜなら、高層マンションは階数が上になればなるほど、風、雨、紫外線などの外的要因を受けやすく、また、作業をするための足場の費用も膨大になるなど、メンテナンスが大変というところがあります。特に、高さ60mを超える様な超高層マンションは免振装置なども装備されていたり、消防用設備やエレベーターも高層用の特殊なものである場合が多く、設備の維持費もかかるため、それらがないがしろにされると本来の性能を発揮できないことになり、結果的に寿命が短くなってしまうのです。しかし、足場を組まずにメンテナンスを行ったり、リフォーム、リノベーション用のエレベーターが開発されるなど、昨今は大手建設会社やメーカーでもメンテナンス技術の開発に力を入れはじめています。こういった新技術の進歩により、建物自体の寿命は以前より延びていますし、今後もさらなる技術の進化に期待したいですね」

鉄筋だけじゃない! マンション共用部の設備で気を付けたいところ

以前、マンションの劣化しやすい部分についての記事でもお届けしましたが、大規模マンションですとさまざまな設備がそろっていますよね。そういった設備にも当然、寿命がありますので、定期的な保守や修繕工事が必要です。そのあたりについても佐久間さんに聞いてみました。

■屋上の防水が建物の寿命を大きく作用する


「定期的にメンテナンスをしないといけない部分でいうと、やはり鉄筋の錆を防ぐということにつきます。その影響が出やすいのが屋上です。屋上の防水のメンテナンスを怠ると、確実にマンションの寿命を早めてしまうので注意が必要です。『屋上の防水』は、劣化を防ぐという意味では防水材の上からコンクリートで抑えるのが一番いいのですが、メンテナンスも大変ですしヒビが入るリスクがあります。安全性が高いのは『アスファルト防水』というもので一般的にRC造の屋上はこの防水対策を施すことが多いでしょう。また、バルコニーの防水は『FRP防水』というのがおすすめです。これは浴槽や受水槽のようなプラスチックの樹脂を塗布する防水工事になります。防水性能は非常に高いのですが、屋上のような広い面積に塗ることができず、均一な面が作りにくいというデメリットもあるので、屋上向きではありません。適材適所で防水の種類を選んでいくことが重要です」

よくあるマンション設備の寿命について

鉄筋部分はなかなか一般の住民が目にすることはないですが、日常的に誰でも目にする共用部の設備についても寿命があります。それぞれの寿命について佐久間さんに聞いてみました。


■配管の寿命は10~15年


共用部の設備で劣化しやすいのが『配管』です。寿命は10~15年と言われています。そもそも20年~30年前ぐらいのマンションの配管は鉄でできていたものが多いので放っておくとどんどん錆びてしまいますし、配管を覆っているコーディング材がはがれるとさらに錆を進行させてしまいます。それから配管の詰まりにも注意です。構造上、家庭から出る配水は下水道まで特別な圧力を加えず、自然の勾配を使って流しているだけなんです。長年水に溶けないものを流し続けてしまうと、いつか配管が詰まって大がかりな修繕工事になるので、定期的な清掃を行うなど、配管を詰まらせないことを意識する必要があります」

■エレベーターの寿命は30~35年


「エレベータには2種類のタイプがあって、昔のタイプは油圧で押し上げる『油圧式』が主流でしたが、現在はロープでバランスをとる『ロープ式』がほとんどです。以前はロープ式エレベーターは屋上に機械室を設ける必要がありましたが、油圧式エレベータはそれが不要であったため、特に高さ制限の厳しい都心部で多く用いられてきました。しかし、高速化が難しい、騒音が多い、油に不純物が混ざるとメンテナンスが必要になるなど、デメリットも多かったのです。その後、ロープ式のエレベータの機械が小型化され、地下のピットに機械をおさめる機械室レス型のロープ式エレベータが開発されて以降はロープ式が主流になりました。

エレベーターは定期的にメンテナンスすることが法的に必要とされているものなので、急に故障して交換するということはまずありません。しかし、古いタイプのエレベータは部品が製造されなくなったり、電気的な制御を行う制御盤の交換が必要になる等で寿命を迎えます。それらの部品の耐用年数や制御盤の寿命は大体30年程度と言われています。この交換の時期に、古い油圧タイプのエレベーターをロープ式のエレベーターに交換しようとすると、マンションの階数にもよりますが、10階以下の中層のものでも1,000万円程度かかるなど、マンションの修繕費用の中でもコストがかかる部分であるということを覚えておくとよいでしょう」

■機械式駐車場の寿命は20年~25年


機械式駐車場もメンテナンスにお金のかかる設備の1つです。これもエレベーターと同様に部品や制御盤の耐用年数により、寿命は20年~25年ぐらいといわれています。車の所有有無に問わず、共用部のメンテンナンスは管理組合全員の負担になりますので、住戸数が少ないほど戸あたりのメンテナンス負担額が上がるのも意識しておく必要があります」

古いマンションを購入するときに気を付けたいチェック項目

最近のトレンドで、新築マンションを購入するより、中古マンションを買って自分好みにリフォームする“リノベーションマンション”を選ぶ方も増えていますよね。新築と比べて値段も比較的手ごろで、立地も選択肢が豊富なのが中古マンションのメリットです。見た目が気に入ったのだけれど、買って大丈夫かな? と悩んでいる方に、中古物件を買う前に、これだけは気を付けたいポイントを佐久間さんに聞いてみました。

Q.古いマンションを購入する際にどの点に注意したらいいでしょうか?

【ポイント①】旧耐震ではなく、新耐震を選んだほうがいい。


中古マンションの年代によって気をつけないといけないのが、耐震設計基準の違いです。1978年に起こった宮城県沖地震の影響で、1981年にそれまでの建築基準法が改正され、これによって耐震設計基準が変更されています。それまでの耐震設計基準(旧耐震)ですと、震度5強までは壊れてはいけないという基準になっていましたが、震度6以上の地震が来た時には震度5強が来ても壊れないのだから、6以上の地震が来ても危険な壊れかたをしないであろうという建物の冗長性に期待する考え方になっていました。

しかし、建築技術の進歩によって、それまでは考えられなかったような柱~柱間の寸法を広げたり、キャンティレバーと呼ばれる跳ね出し部分を作るような工法が開発され、震度5強ではびくともしなくても、震度6以上の地震では非常に危険な倒壊の仕方をする建物が作れるようになってきたのです。そこで、法改正により、震度6~7までは例え損壊(全壊)したとしても、死者を出さず安全な壊れ方をするようにするよう規定しているのが1981年に導入された新耐震設計基準です。古いマンションの場合、資産価値の観点から耐震診断自体を拒まれる管理組合などもいらっしゃいます。また補助金などもいろいろありますが、旧耐震から新耐震への耐震工事を実施すると数か月の工事期間とそれなりのお金がかかります。また、工事期間は退去しないといけない場合もあります。できれば予め新耐震基準を満たしているマンションを選んだほうが良いでしょう」

【ポイント②】住民が修繕積立金をちゃんと払っているマンションであること


「昨今の問題として挙がっているのが、いざ大規模修繕工事のタイミングを迎えてみても、工事にかかる修繕積立がちゃんとなされていないというケースです。管理組合が率先して住民の払い込み状況を管理していたり、修繕積立金の滞納がないマンションを選ばないと大規模修繕工事すらできません。事前に管理会社さんなどを通して、修繕積立金についての状況や、過去の修繕履歴をヒヤリングしておくとよいでしょう」

【ポイント③】デザイン性ばかりを重視しているマンションも注意が必要


個性的なデザインや、プライベート性を重視した1フロア2邸などといったマンションなども注意が必要です。住戸が少ないほど修繕積立金の負担はあがりますし、デザインが凝ったマンションはメンテナンスの際の費用も高くなる傾向にあります。例えば、真ん中が吹き抜けになっているようなホテルライクなマンションの場合、大規模修繕工事の際に、足場を通常は外側の4面だけでいいものを、内側にもさらに4面の計8面の足場を組まなければならないため、その分コストが上がり工事期間も長くなります。それから1階が全面ガラス張りの店舗が入っているようなマンションもやはり耐性を維持するという意味では、土台がしっかりしていない分、劣化しやすくなると言えます。素敵なデザインのマンションを選ぶのもよいですが、しっかり中身を確認し、安心して長く住めるマンションを選んだほうが、資産価値という意味でもよいでしょう」

まとめ

今回はマンションの寿命に関して詳しくお伝えいたしました。お話を伺ってみて、マンションの寿命はコンクリートではなく、構造に入っている“鉄筋”に左右されるというのは驚きでした。さらに、屋上、配管、エレベーターなど、どこのマンションにもあたり前についている設備にも寿命があり、その年数はマンションの耐用年数より短いものもありました。だからこそ日頃の定期的な保守やメンテナンスが重要ですし、そのための管理費や修繕積立金を払ってちゃんと自分たちのマンションを守るという意識を心掛けたいですね。データにあるように、今後中古マンションは確実に増えていきます。これからマンションの購入を検討されている方は、こういったプロのアドバイスを参考にしながら、できるだけ安心して長く住めるマンションを選んでいただければ幸いです。

≪お話を伺った方≫
株式会社建築再構企画 佐久間悠さん(代表/一級建築士)
http://kenchiku-saikou-kikaku.com/

≪参考≫
国土交通省 老朽化マンションの建替え等の現状について(2014年1月配布資料)http://www.mlit.go.jp/common/001024893.pdf (pdfへリンク)

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