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マンションはなぜ劣化するの? 大規模修繕工事のエキスパートに聞いてみました

2018.05.31

あなたが現在マンションにお住まいなら、そのマンションはいつか必ず大規模修繕工事を迎えます。もしくはすでに修繕工事を具体的に進めている皆さまもいらっしゃるかもしれません。現在、大規模修繕工事は新築から12年~15年後ぐらいで1回目を迎えるマンションが多いといいます。まだまだ先だから気にしなくても大丈夫……という方も多いことでしょう。しかし、問題はなさそうに見えていても、マンションは日々劣化していくものだとプロは言います。実際、どの部分が傷みやすいのでしょうか? 日常的にどんなメンテナンスを行っていればいいのでしょうか? 大規模修繕工事の“エキスパート”に聞いてみました。

訪れたのは、ちょうど2回目の大規模修繕工事を迎えた築20年以上の大規模マンション。ここで現場代理人をつとめているのが、株式会社ヨコソーの石破文弥さん。特命工事部“エキスパート”の役職をもつ、大規模修繕工事のプロフェッショナルです。早速、現場を巡りながら、傷みやすいマンションについて詳しく聞いてみました。

傷みやすい2か所は、「外壁塗装(タイル)の劣化」と「防水の破断」

Q.まずは大規模マンションで、よく傷む箇所を教えてください。
「よく傷む部分の代表格としてあげられるのが、『外壁塗装(タイル)の劣化』です。そもそもマンションは鉄筋コンクリート造(通称RC構造)が多いのですが、コンクリートがむき出しのままだと劣化してしまいますし、見た目の“意匠”という意味でも、外壁に塗装をしたり、タイルを張ったりしますよね。マンションが経年してくると、この塗装している部分の塗膜がはがれたり、タイルにヒビが入ってしまうことがあります。この場合は、保護機能が低下してしまっているので、外壁の塗り直しや、タイルの交換・補強という修繕工事が発生します」
修復が必要なタイルはこのように目印をつけていくそうです。テープの色やチョークを使うことで、当該箇所の状態が分かるようにしているとのこと。

「もう1つが『防水の破断』というものです。屋上や共用部の廊下、バルコニーなどコンクリート部分の防水性を保つために、ウレタン樹脂をコンクリートに塗り重ねるウレタン防水を実施するのですが、こちらも時間とともに劣化します。この状態を放置してしまうと、最終的にはウレタン防水(以下画像の上部溝部分)の防水膜が破れて漏水が発生してしまうケースにもなるので注意が必要です」
訪問したマンションの廊下には、保護のために塩ビシートが張ってありました。こういったものも、毎日多くの人が通ることにより、シート自体がはがれてしまうこともあるそう。

海沿いのマンションだけじゃない! 西日が当たるマンションも要注意!

気軽にリゾート気分が味わえる海沿いのおしゃれなマンション、憧れますよね。でも実際、ずっと海の潮風に当たっていると塩害の影響を受けてマンションの劣化が早いという話はよく耳にします。そもそも立地条件によって傷みやすい家はあるのでしょうか。早速、石破さんに聞いてみました。

Q.傷みやすいマンションの傾向などはありますか?
「正直、こればっかりは新築時に施工した会社にもよりますし、マンションごとに異なるので絶対こうだという傾向はありません。しいていえば、海沿いのマンションは塩害の影響で、鉄部分の錆が進行しやすいというのはありますね。塩害用の専用塗料があるので、それを塗ることで対策できます。海沿い立地に問わず、やはり鉄部分は劣化が顕著に現れる部分ですね」
訪れたマンションのメーターボックス部分。今回はすべて修繕工事の対象になっているそう。

「それから同じマンションでも、西日が強く当たる場所は他と比べて劣化します。特に玄関ドア周りに関しては、西日による紫外線で扉が日焼けしてしまってダメになってしまいます。あとは、逆に日が当たらなすぎても、湿気がこもって結露してしまいます。ただ、結露が起こるのは共用部分(廊下側)というよりは、専有部分(部屋側)に多くみられます」
紫外線で劣化してしまった玄関扉のシートも全面張り替え工事を実施予定とのこと。

エキスパート直伝! マンションの部位別に傷む要因をチェック!

立地条件だけではなく、同じマンション内においても劣化しやすい場所や箇所があるということなので、マンションの部位別(壁、配管、屋上)に傷む要因を詳しく解説していただきました。

Q.マンションの壁が傷む要因は?
「壁の劣化に関しては、正直なところマンションの施工時のクオリティに影響してしまうところはあります。ただ、マンションは経年してくれば必ず劣化してくるものだと思いましょう。壁に関していうと、紫外線などの外的要因により塗膜がはがれてきたりタイルが破損してしまったり、どこかしらに入ったヒビから雨水などが浸入することでタイルが浮いてしまうということが挙げられます」
壁の劣化を確認するために、打診棒で1つずつタイルを叩く打診検査。張り替えが必要なタイルには今回の現場ではピンクの目印をつけているとのこと。

Q. マンションの配管が傷む要因は?
「マンションの配管は塩ビ管という材質を使っていて、鉄のように錆びるものではないのですが、ジョイント部分のところが年月が経つと割れてしまうということが起こります。それから漏水にも注意が必要です。長年、落ち葉やゴミなどが中に詰まったまま放置してしまうと水漏れの要因になります。そうなると、配管を一度切断して繋いでいるジョイント部分を付け替えるという大掛かりなな修繕工事が必要になってしまいます」
放っておくと漏水の原因に! ジョイント部分の錆も要注意ですね。

Q. マンションの屋上が傷む要因は?
「普段、あまり屋上に行くことはないと思いますが、屋上は常に紫外線や雨水にさらされている部分なので劣化しますし、いくら防水対策を施したとしても永久的には防水できません。定期的に屋上専用の防水アスファルトシートを張り替えて保護をする必要があります。もちろん防水工事という点では、屋上だけでなく廊下やバルコニーにも専用の防水シートを張ったり、ウレタン防水を施すなどいろいろ対策が必要です」
雨水の影響で屋上の塗装に浮きが発生してしまっている状態。これを放置してしまうと漏水の原因になってしまうので、至急工事が必要なのだとか。

Q. その他に傷みやすい場所と要因は?
「共用部分の手すり部分も劣化しやすい場所です。そもそも人がさわる部分なので、影響を受けやすく、かつコンクリートがうすいので割れてくることがあります。見た目の状態がよくても、内部の鉄筋が錆びている場合は厄介です。どれだけ外を補強しても結局、内部が錆びて空洞になっているので、衝撃を与えた瞬間にぼろっと取れちゃうことがあります。その場合は、コンクリートごと壊すため、再度その部分の修復作業が発生します。これは結構大がかりな工事になってしまいます。こういったところは専門家が打診検査を行わないとわからないところなので、やはり修繕のタイミングを早めに見極めて工事を実施することが大事なポイントです」

塗装の状態は良好であるものの、すでにヒビが入り要工事対象となっているマンションの手すり部分。

廊下のこまめな清掃も大切なポイント

Q.日頃、管理組合ができる劣化予防対策はありますか?
「正直なところ、マンションの劣化を皆さまで防ぐ方法はあまりないのですが、先ほど述べたような配管の劣化を防ぐために、日ごろからこまめにマンションの共用部分にたまった落ち葉やゴミを掃除するだけでも随分、違ってくると思いますね。あと、意外かもしれませんが、バルコニーに植木鉢などを置くのもマンションの劣化を早めてしまうんです。これはウレタン防水が土に弱いためです。毎日植木鉢に水やりをすることで、泥水がウレタン防水に流れてしまうとダメージを受けてしまいます。だからといって、植木鉢を禁止してほしいという訳ではないです。住民のみなさまが、こういったマンションの維持に関する知識を少しでももつということが、マンションを守ることにつながるので、大事なのだと思います」

外部の調査機関もうまく使ってみよう

「せっかく気に入って購入したマンションなのですから、ちゃんと自分たちでマンションを守っていくのだという意識を持つことがマンションの維持につながります。ちょっとでも気になる部分があったらすぐ情報共有をしたり、管理組合が主体となって定期的にアンケートを取って意見を募ることもすごく重要です。最近はマンションの劣化を調査してくれるNPO法人もたくさんあります。管理会社があまりメンテナンスに前向きになってくれないのでしたら、そういった外部の調査機関もうまく使って、自主的にマンションの調査やメンテナンスについてみんなで向き合ってみてはいかがでしょうか」

・新築マンションを購入した際に、対策しておくとよいこと

「新築マンションを購入して、12~15年ほどたって最初の大規模修繕工事を迎えた際に、意外と問題になるのが、壁のタイル問題です。タイルは本来、マンションの施工時に一括で焼いて納品されて終わりです。つまり修繕工事のための予備のタイルは用意されていません。大規模修繕工事では、タイルの張り替えもよく行われますが、同じメーカーでも取れた石や土の状況が違うので、その当時のタイルの色調を完全に再現することは不可能です。そんな際に備えて、もしできるのであれば、あらかじめ予備のタイルをマンション自体で保管しておいたほうが良いでしょう。タイル自体は薄いので1万枚ぐらい保管しても小さな段ボール数箱分程度ですので、そこまで場所をとりませんので」

今回の修繕工事のために発注したタイル。よく見ると元のタイルとやや色が異なるのが、お分かりいただけるでしょうか。これは、タイルに使われる土や気候、焼き方などの条件で風合いが違ってきてしまうため、まったく同じタイルを新しくつくるのが非常に難しいのだとか。

こんな時は早めに工事の検討を! 修繕工事をしたほうがよいサイン

Q. 最後に、そろそろ工事を検討したほうがいい“劣化の兆候”ってありますか?
「なかなか難しい質問ですね。あくまで一例ですが、最近マンションで人気のルーフバルコニー付きタイプがありますよね。これ自体はいいのですが、ポイントはルーフバルコニー付き住戸の真下にお住まいの方。何度も繰り返しますが、ウレタン防水は泥水に弱いというのはお伝えした通りです。その影響が一番出てしまうのが、ルーフバルコニーの真下の住居です。該当の住戸にお住まいの方で、最近天井のクロスに膨らみや、浮きがでているなと思ったら要注意です。すでに漏水が始まっている可能性が大きいので、管理組合にすぐ連絡して処置をするようにしましょう。そういう症状がでたらマンション自体に傷みがきている兆候ととらえ、大規模修繕工事の検討に入ったほうがよいと思います」

まとめ

  • 傷みやすいのは『外壁塗装(およびタイル)』と『(ウレタンなどの)防水』
  • 傷みやすいマンションの傾向は施工会社による部分が大きいものの、『海沿い(塩害)』『西日が強く当たる場所』などの傾向がある
  • マンションの壁が傷む要因は『経年』『外的要因』『ヒビからの水の侵入』などがある
  • 配管は『落ち葉やゴミなどが中に詰まったまま放置』してしまうと水漏れの要因になる
  • マンションの屋上が傷む要因は『常に紫外線や雨水にさらされている』から
  • その他に劣化しやすいのは『共用部分の手すり部分』
  • 管理組合ができる劣化予防対策は『配管部分は落ち葉やゴミをこまめに除去する』、『泥水がウレタン防水にたまらないようにする』など

最後に

大規模修繕工事は必要だとは思っていても、それなりのコストもかかりますし、数か月間もの間、日常生活に制約がでてしまうのも事実ですよね。うちは、まだきれいだから大丈夫じゃない? なんて考えがちではありますが、早め早めの行動やちょっとだけ意識を向けることが、結果的に長く住めるマンションを維持させる秘訣なのかもしれませんね。ぜひこの記事を読んでいただき、少しでも自分たちのマンションのことを考えるきっかけになっていただければ幸いです。

≪お話を伺った方≫
株会社ヨコソー
特命工事部 エキスパート
石破文弥さん
企業HP:
https://www.yokosoh.co.jp/

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