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住まいのリフォーム用語集

工事発注方式(責任施工方式と設計監理方式)

輪番制や抽選、立候補など選任方法はさまざまですが、マンションの修繕委員になったけれど、どうしていいのかわからない……という方は多いのではないでしょうか。大規模修繕工事の際に一番怖いのが詐欺まがいの工事会社に当たってしまい、いい加減な工事をされたり、施工ミスがあったりすること。とんでもない金額を支払わなければならなくなったりする場合もあります。かといって、そもそも工事会社をどう探せばいいのかわからないし、何を基準に選んでいいのかもわからないというのは、初めての大規模修繕工事を実施するマンション管理組合では共通の悩みではないでしょうか。

大規模修繕工事の際の工事会社への依頼方法は、「責任施工方式」と「設計監理方式」の2種類があります。どちらかが正解でどちらかは不正解ということはなく、双方にメリットデメリットがありますので、どちらの工事発注方式が自分たちのマンションに向いているか考え、納得して依頼することが大切です。

責任施工方式と設計監理方式

先述したとおり、大規模修繕工事会社への依頼方法は「責任施工方式」と「設計監理方式」の2種類があります。具体的にそれぞれの特徴を示すと以下のようになります。

責任施工方式
建築士の所属している工事会社に調査診断・改修工事・資金計画、そして工事の実施まで任せる方式です。管理組合の理事会あるいは修繕委員会等主導で、自分たちで公募を行って数社ほどピックアップし比較検討をして、自分たちで会社を決め工事を発注します。

設計監理方式
まず建築士が所属している建築設計事務所や管理会社から、調査診断・改修設計・施工会社の選定・資金計画に関わる技術的、実務的な業務や工事の監理を委託する、改修コンサルティング会社を選定します。その後、工事はコンサルタントとともに検討して決定した工事会社へ委託します。「設計監理方式」は工事会社の選定の際に、客観的かつ専門的な視点で選定することが可能です。

結局どちらの方式がよいのでしょうか?

冒頭でも述べましたが、「責任施工方式」も「設計監理方式」もそれぞれメリットとデメリットが存在しますので、あなたのマンションの状況に合わせて選択することが必要です。では、それぞれのメリットとデメリットがあるのでしょうか? 早速、比較してみたいと思います。

「責任施工方式」のメリット

・工事以外の面(設計や資金計画など)と実際の施工が同じ会社のため、施工者の知識をフルに活用して現場条件に適した設計や施工者の固有技術を活かした合理的な設計ができます。

・設計と施工を分離して発注した場合に比べ発注業務が少なくて済むため、修繕委員会の管理負担が少なくて済みます。

・設計と施工が同一の会社のため、設計段階から施工の準備をすることが可能です。

・設計段階から施工の準備がすることが可能なので、工程管理や品質管理の向上、施工者の得意とする技術の活用が期待できます。

・コンサルティング費用が必要ないため、設計監理方式に比べて費用を抑えられます。

「責任施工方式」のデメリット

・設計と施工が同一会社のため、施工者に偏った設計となりやすく、設計者や発注者のチェック機能が働きにくくなります。

・「設計監理方式」に比べると修繕委員会など、管理組合側の業務範囲が拡がり、負担が大きくなります。


「設計監理方式」のメリット

・設計と施工が別々の会社になっているため、客観的な立場から監理が行われ透明性が高い工事が期待できます。

・工事会社を選ぶ際に専門家の視点や知識を取り入れて選定することができます。

・工事中の検査なども専門家が行ってくれるためトラブルも少なくなります。

「設計監理方式」のデメリット

・工事費用と別にコンサルタント費用が発生して費用負担が増えます。

・いかによい監理会社を選定するかという判断基準が難しい点があります。

・トラブルが発生した際、設計と施工のどちらに責任を求めるのかが曖昧になりやすくなります。

お金があるなら「設計監理方式」のほうが安心?

上記をふまえると、おそらく「お金に余裕があるのであれば、設計監理方式がいいのでは?」という方が多いのではないでしょうか。確かに施工者でも発注者でもない第三者であるコンサルタントの意見というのは専門知識のない管理組合にとっては心強いですし、品質も安心ですよね。

しかし、国土交通省の調べによると大規模修繕コンサルティング業務での問題が発生するケースもあり、専門の知識があるからといって確実に安心とはいえません。コンサルティング業務で問題になるケースは、以下のようなものがあります。

コンサルティング業務で問題になるケース

<ケース1

見積もりの結果、一番安価なコンサルタントに依頼をしたところ、実際にコンサルタントとして仕事をしていたのはまだ契約前の工事会社の社員だった。コンサルタントを騙っていた工事会社の社員の選定支援によりその工事会社に内定していたが、契約前だったため契約は見送られた。コンサルティング会社のパンフレットには技術者が多数所属していると書かれていたが、実際は社長と事務員1人のみの会社であった。

<ケース2>

コンサルタントが、工事会社の候補のうち1社のみに少ない数量の工事内容を伝え見積もり金額を低くしていた。その事実が工事会社との契約前に発覚したためコンサルタントに説明を求めたところ業務の辞退を申し出られた。その後、別のコンサルタントと契約したが仕様書や工事項目に問題点が多数あることが発覚し、すべての書類を作り直すこととなった。

<ケース3>

格安な料金でコンサルティングを行う代わりに工事会社からバックマージンを受け取り、不適切な工作(割高な工事費・過剰な工事項目等)によりバックマージンを支払っている工事会社の受注へ誘導して、結果的に経済的な損失が出た。

結局は、パートナー選びが大事です

「責任施工方式」と「設計監理方式」のメリット・デメリットについて説明しましたが、どちらの方式を選ぶにしても共通していえることは、「パートナー選びが大事」ということです。とはいえ初めての大規模修繕工事の場合は、何を基準に選べばよいかもわからないですよね。この会社なら確実に大丈夫! ということが言えない以上、まず大規模修繕工事の知識をつけるというのがいちばん確実な自衛手段です。相手はプロですので、何も知識のない状態では、悪い会社に騙されやすくなったり、いいパートナーに出会えてもその良さががわからなかったりします。管理組合のお金を守るためにも、大規模修繕工事の流れやお金に関する知識があれば、納得のいく会社を選ぶことができるのではないでしょうか。

 

参考文献:国土交通省「設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式」