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住まいのリフォーム用語集

勾配屋根の改修

1. 勾配した屋根の改修の現状

近年のマンションにおいて、比較的大きな面積で緩やかに勾配する屋根の改修には「アスファルトシングル葺き」と言われる、砂付きのアスファルト防水シートを張る防水工法が行われています。しかし急勾配の屋根や、建物に対して吹き上げの風の強い海沿いや高台にあるマンションでは、経年劣化によりアスファルトシングル葺きの接着強度が弱まり、剥がれてしまう事故もまれに発生しています。1回目の大規模修繕工事では、既存のアスファルトシングルの状態が良好で、形状・立地の条件があえば、その上に重ねて張る「被せ工法」が採用されています。

 

2.アスファルトシングル葺き屋根の改修

被せ工法の場合、まず屋根全体を高圧水洗浄した後、既存アスファルトシングル部の膨れ補修を行います。膨れ箇所を切開した後、トーチバーナーで熱して再接着します。次に軒先(屋根の先端部分)、ケラバ(屋根の両端の部分)の金物をアスファルトシングルと一緒に撤去し、新規の金物を取り付けます。これは、吹き上げの風による剥がれの対策と、雨水の浸水による漏水の対策のために実施します。

その後、下地活性材を全面に塗り、防水シートを張る下地を作ります(下地活性材には防水効果はありません)。既存アスファルトシングル葺きの上に塗り、新規のアスファルトシングル葺きと新規の防水シートの付着力を向上させます。

防水シートを張った後、アスファルトシングルの基材(表面に砂の付いた仕上げ材)を張っていきます。裏面に接着材を塗り、瓦と同じように、水下(勾配の低い方)から順番に重ねて張っていきます。頂上の棟の部分等の強度的に補強が必要な個所には釘を打ち、剥がれを防止して完了になります。

 

3.急勾配屋根の防水

急勾配の屋根の場合でも、アスファルトシングル葺きの被せ工法が選定される場合があります。防水層の接着材の接着力と釘打ちによりしっかりした強度が保つことが可能であれば問題はありませんが、急勾配での施工では、屋根足場での作業になるため、施工品質の低下や台風などにより想定以上の吹き上げの風が吹いた場合、アスファルトシングル層が剥離する懸念もあります。

 

4.機械式固定塩ビシート防水

アスファルトシングル葺き被せ工法の他に、機械式固定塩ビシート防水工法があります。電動ドリルを用いて下地コンクリートまで穴を貫通させてアンカーを固定し、丸いディスク板を取り付けます。アンカーは既存屋根防水の厚み、躯体コンクリートの強度、新規屋根の風等による引張力等を計算して、その太さ・長さ・間隔(本数)を決定します。このディスク板に塩ビシートを電気溶着(熱で張り付ける)して固定します。

アスファルトシングル葺き工法と比較した際のデメリットとして、「騒音と振動」が発生することがあります。コンクリートを削って穴を開けてアンカーを打ち込むため、どうしても屋根の直下のお宅にはご迷惑をお掛けすることになります。お部屋の直上の工事は基本的に1日ですが、建物の形状や天候、工程の都合上、2~3日掛かる場合もあります。

塩ビシート防水は、ディスクと塩ビシート、周辺金物と塩ビシート、塩ビシート同士の継目のそれぞれを電気溶着にて接合するため、屋根一面に防水層を形成します。既存防水に全面接着する防水工法に比べ、地震等での躯体コンクリートの動き対して防水層にひび割れや破断が発生しないメリットがあります。

 

5.事前確認調査

機械式固定塩ビシート防水は、アンカーの引張強度が非常に大切です。実際の施工を行う前に必ずアンカーの引張強度試験を行います。ディスクを固定するアンカーをコンクリートに打ち込み、計算された強度以上の数値が出るかを確認します。

防水の種類によっては防水層が何層も重なっていたり、断熱層があったりして厚みが違います。また躯体コンクリートの厚みが薄く強度が確保できない場合もあるので、事前の図面確認や過去の防水工事の履歴を確認し、アンカーの長さや太さ等を決定します。

 

6.電気試験(完成検査、定期点検、突発的な不具合時)

住ベシート防水※の機械式固定塩ビシート防水では、電気試験を行って防水層の不具合箇所を調査することが可能です。塩ビシートの下に専用シートを敷くことにより、針の先のような穴が防水層に開いていた場合、電気試験により電気が流れ、「バチバチ」という音がします。これにより漏水の原因の特定を素早く行うことが可能です。ただし、屋上やルーフバルコニーから手が届く範囲のみとなります。

現在、防水の改修にはいろいろな種類の工法がありますが、建物の形状や立地条件、予算、修繕サイクル等を総合的に検討して、より建物に合った防水方法を選択することが必要です。

※住ベシート防水株式会社